デジタル化だけでは小売業は難局を乗り切れない。先進企業がすでに始めている「その次」とは
デジタル化の「その次」は企画力である!
そこで、彼らが最も悩むのは、いわゆるシンギュラリティ(AI<人工知能>が人智を超越する)であり、「クリエーションもやがてシステムが人間の業務範囲を抜かすのではないか」、という不安と疑問だった。私は数多くのAI のトレンド分析(予測では無い)の場に立ち会い、その卓越した技術と可能性に驚愕した人間の一人だ。しかし、だからといって(現段階で)優秀なマーチャンダイザーを抜かすほどの精度をもっているかどうかと聞かれれば、大声で YESとは言いにくいところもある(時間の問題であろうが…)し、そもそも、20年前に業界がQR一色となり、同質化に陥ってコスト競争に陥った苦い歴史の生き証人でもある。
少々、話を横道にそらすと、あれだけ売れないといわれ続けたApple Watchを毎年改良し、色々なコミュニケーションを用いて生活の中に溶け込ませ、市民権を得るまで粘り強く改良を重ねて事業の柱に育て上げたApple をみて、イノベーションとは一発勝負ではなく、粘り強さと強いヴィジョン・持続性であることを感じた。マーケティング的に「キャズム」と呼ばれる、大衆と新しいもの好きの間にある「溝」を超えることは容易ではないが、Apple Watchはその良い例だと思う。
幾社との討議を重ね、我々(私と経営者達)は以下のような結論に達した。
①こうしたハイテクは、トレンド情報の下地作り、枠組みとして利用し、そこからでてくる情報を参照情報とし、「人」が、独自性やブランドの守るべきルールを抽出、あるいは間引く。あえて、AIによる分析とは逆バリでMDを組むことも、ブランドによってはあり得る。
②トレンドを分かってやる逆張りと、分からずに外すのは似て非なるモノだ。このような、人とAIの相互協力こそ(当面の)現実的な解ではないか。
今、水面下ではポスト・デジタイゼーション(Post-digitization)で、先進企業では、「次の戦略」(成長戦略)を練っている段階にきている。残念ながらメディアで紹介される情報は数周も周回遅れであることが多い。企業の内部に入り、建設的に経営者と日々議論をしていると日本のアパレル企業は、必ずこの難局を乗り切り復活を遂げると信じている。
プロフィール
河合 拓(事業再生コンサルタント/ターンアラウンドマネージャー)
ブランド再生、マーケティング戦略など実績多数。国内外のプライベートエクイティファンドに対しての投資アドバイザリ業務、事業評価(ビジネスデューディリジェンス)、事業提携交渉支援、M&A戦略、製品市場戦略など経験豊富。百貨店向けプライベートブランド開発では同社のPBを最高益につなげ、大手レストランチェーン、GMS再生などの実績も多数。東証一部上場企業の社外取締役(~2016年5月まで)