「株主は地球」環境負荷を最小限にするパタゴニアの「スロー」なビジネス戦略の神髄
すべてのステークホルダーにとって「サステナブル」であること
地球資源のみならず、働くスタッフや農業従事者などすべてのステークホルダーにとっての持続可能性を志向しなければ、本当の意味でのサステナビリティとはいえない。その点で、「社員の新しい働き方も模索し始めている」と川上氏は語る。
「これまでは店舗、EC、ホールセール(パートナーシップを締結する企業との取引)の3つのチャネルが相互に補完し合いながらビジネスを成長させてきた。ところが、店舗のスタッフはどうしてもその店舗のあるエリアに働き方を制約されてしまう」
川上氏がイメージするのは、一言でいうと「チャネルからエリアへの転換」だ。日本全国の各地域にフォーカスし、店舗、EC、ホールセールの各チャネルの垣根を取り払って、パタゴニアのスタッフが自治体や環境保護団体、住民との関係を構築しながら、その地域固有の課題解決にあたるという、働き方の大胆な転換だ。
「もちろんパタゴニアは営利企業なので、ビジネスとの両立は模索しなければならない。しかし、既存のチャネルにとらわれず、全国のさまざまな地域との新しいつながりを構築する可能性はあるのではないか」(川上氏)
また、2012年より国際認証制度「Bコープ認証」を取得。厳格な評価のもと、社会や環境、従業員、顧客といったすべてのステークホルダーに対する利益を追求した公益性の高い企業に与えられるもので、非常に厳格な認証制度だが、日本でも少しずつ浸透しつつある。
また、オーガニックに移行中のコットンを「コットン・イン・コンバージョン」として買い取る、新たな移行支援プログラムもスタート。オーガニックコットンに移行する際、認証を得るまでには約3年かかるため、農家としては大きな経済リスクを負う。認証達成に励む農家の努力に報い、達成までの道のりをサポートする取り組みだ。
「私たちは環境先進企業と言われているが、大企業と比べると社会へのインパクトははるかに小さい。ただ、環境負荷を最小限にするためのビジネスに本気に取り組んでいるのは事実。『これでもビジネスが成立するんだ』という成功例を少しでも示していきたい」(同)
出店戦略においてもマーケティング戦略においても、パタゴニアは総じて「スロー」な企業だ。しかし、「スロー」であるがゆえに、その存在はユニークさを増し、多くのファンを魅了し続けるのだろう。