全3回にわたって「アパレル業界のフィクサー商社の実態に迫る」をテーマにお届けしている商社編も今回で最後。前回に引き続き、商社不要論から商社活用論に産業界の論点が移ってきている様とともに、商社の未来図と産業界における新しい位置づけについて解説する。
中小企業群のプラットフォーマーとして商社は存在感を増す!
前回説明した通りの状況にあって、商社は「南下政策」以外の付加価値創造領域に活路を見いださなければならなくなり、、歴史的に最も成功した事例は、伊藤忠商事のブランド・ビジネスだった。また、財閥系商社は、豊富な資金力とノウハウをいかし、AI(人工知能)などデジタルへの投資、ブランドのM&A(合併・買収)を行い、最近では、アパレル企業の海外進出支援まで行う、問題解決型の機能を付加した投資銀行とコンサルティング、デジタルソリューションと経営人材派遣の4つをミックスした動きを主軸において、アパレルとのパイプを太くしながら付随するトレード(随伴トレード)を拡大する方向性に舵取りを行っている。
さらに大きな視点で商社を見れば、他産業で得られた知見を産業転用し、例えば、アパレルでは半ば常識となりつつあるマス・カスタマイゼーション・ノウハウをデジタル技術で精度とスピードをもって実現し、アパレルと取り組もうとしている事例もある。今後、デジタル化によるD2Cビジネス(Direct to Consumer、工場が直接消費者に商品提供をする)による製販統合が加速し、これまで製販が分離していたアパレル業界のバリューチェーンは、顧客データを中心軸とした、販売側ではECと配達物流の高度化、そして、生産側ではパーソナル・オーダーのかけ算型ビジネスモデルとなり、結果として有象無象の中小企業群のプラットフォーマーとして商社はその存在感をだしてゆく。
デジタル化のインパクトは、人がやってはできないほどの量を、人が到達できないほどの精度とスピードをもって成し遂げ、生産性と企画力向上を阻害してきた業務、商品、時間のムリ、ムダ、ムチャをオプティマイズ(産業最適化)してゆく。
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日本のアパレル業界で唯一の成長分野は素材産業!ここにチャンスがある
ユニクロ一強時代を生き抜く知恵は、商社活用しかない
大手の商社は、このように「売り場」か「作り場」を押さえ、今後、統合しながらビジネスボリュームを拡大してゆくことになるだろう。この論説がでているころには大手商社の繊維部門の合併の記事がでているかもしれない。
これに対して、専門商社の生き残りの道は何かと言えば、素材から組み立てられる能力を活用した機能素材開発、ということになるだろう。
例えば、イタリアのアパレルブランドは、ほとんどが工場を出自としていて、リテーラー型出自のSPA(製造小売)は少数だ。日本でも、WEB上で自由にパーソナルオーダーを組み込み、顧客と工場をダイレクトに結びつけている鎌倉シャツなど、海外でも評価の高いD2Cビジネスが台頭しており、このようなメーカーであることの必然性を強みとできない商流は短縮化されてゆく。
とくに、ブランドというと伝統的に「コミュニケーション優先主義」が根底にあったように思うが、そうした曖昧模糊とした名前だけのブランドから、具体的な価値をもった商品やサービスのバリューベースに変化している。ブランドとは、裏に値崩れしない差別性と強烈なロイヤルティをもったファンがいるかどうかで評価される時代がくるだろう。
ユニクロが激しい競争と値引き合戦とは無縁でいられるのは、他が真似できないほどの価値を圧倒的なコスパで出せるものづくりのノウハウがあるからだ。そうした本質的な議論(=自社の商品やサービスがそもそも競争力を持っているのかという議論)をないがしろにし、EC比率やAI活用のノウハウばかりマネても、売っている商品が競合と変わらないのだから、何をどうしてもコスト競争に陥ることは自明の理である。
幸運にも、日本には素材産業という成長分野がある。特に合繊機能繊維は世界的にも成長しており、世界で日本が最も競争力をもっている領域だ。専門商社は、東レインターナショナル、帝人フロンティアのように、バックにマニュファクチュアリング設備をもっているところが多いし、天然繊維のコンバーター機能も持っている。
大手商社、専門商社、いずれにおいても単なる卸という枠組みから抜け出し、打ち手が見つからないアパレル企業の裏方として、バリューベースのサービスを構築し、人(経営者派遣)、モノ(素材開発)、カネ(M&A)、情報 (デジタル武装)を複合的にミックスし、自社の強みをいかした川中の産業再編のトリガーとなってゆくだろう。商社不要論から商社活用論に論点の主軸は変化しているのだ。今後、商社の動きに目が離せない。
プロフィール
河合 拓(事業再生コンサルタント/ターンアラウンドマネージャー)