このシリーズは、部下を潰す上司を具体的な事例をもとに5回連続で紹介する。私が信用金庫に勤務していた頃や退職後に籍を置く税理士事務所で見聞きした事例だ。特定できないように一部を加工したことは、あらかじめ断っておきたい。事例の後に、教訓を取り上げた。今回は、激務の上司が部下を野放しにしたばかりに起こった、「負の連鎖反応」について取り上げる。
第5回の舞台:外食チェーン
中堅の飲料水メーカーが運営する外食チェーンの某店舗。店長以下、正社員は4人、アルバイトが約45人。
多忙な店長が部下を野放しにした結果
「お疲れ…」--
午後11時半。小さく、乾いた声が軽く響く。2人の男が、ビールの中ジョッキに口をつける。ここは、勤務する店から歩いて数分の居酒屋。“ミーティング”と称して、同じ店のアルバイトのスタッフを酒のつまみにしながら、バカにし合うのが日課だ。
「あいつ、もう辞めるんだろう?」「学生だから、いい加減なもんだよ」「俺が少しキツク言うと、アイツ、ビビりだよ」「ハハハ…」「もっとやってやろうか」
2人は、フロアマネージャーをする正社員。年齢は20代後半で、社歴は3∼5年。双方とも大学を卒業していないからか、特に男子の大学生アルバイトに厳しい。
この店では大学生の男子のほとんどが、3ヵ月以内に辞める。2人から機会あるごとにいじめを受けるからだ。アルバイトの男子が客席のグラスや皿を下げてくると、待ち構えていたように浴びせる。
「まだわかんないの?さっき、言ったじゃん!何度も言わせないでよ~~」
学生アルバイトは顔を引きつらせながら、「はい」とうなずく。2人はその姿を見ると、目を見合わせて喜ぶ。時に、満身の笑みを浮かべる。
30代後半の店長はこのいじめをうすうす察知しながらも、何も言わない。実際のところは、ひとりで採用から予算管理まで隅々まで抱え込み、頭が回らないのだ。しかも会社の慣例で、3年以内にほかの店舗へ異動となる。いちいち、学生アルバイトの育成に関わっている余裕はないのだ。
2人のフロアマネージャーは悪びれた様子もなく、男子学生のアルバイトをいじめ抜き、毎晩の“ミーティング”のつまみにしている。
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こうすればよかった!解決策
多忙なプレイング・マネージャーでも部下育成はできる
こうすればよかった①
部下を潰す「負」の連鎖反応を「正」に変える
2人の直属上司は、店長である。本来は、フロアマネージャーの育成をしないといけない。だが、プレイング・マネージャーであり、大量の仕事を抱え込む。結果として、2人を野放しにしている。部下の育成を考えたことすらないフロアマネジャーの2人が「上司」になり、アルバイトの学生に教える。ノウハウや経験がまったくなく、心もある意味で成熟していないから、感情をむき出しにしてアルバイトに接する。そのプロセスでいじめが行われる。
事例には、上司が部下を潰すという点では2つの構図がある。1つは、店長が2人のマネージャーを野放しにしていること。もう1つは、マネージャーがアルバイトを「いじる」こと。つまり、連鎖反応が起きているのだ。
見方を変えると、1つの構図を多少なりともよい方向に変えると、新たな連鎖反応が起きる場合がある。そうなると、職場全体の空気が変わる。この繰り返しにより、「連鎖反応」を起こし、組織を少しずつ変えていきたい。それが、店長がするべき「組織マネジメント」なのだ。
こうすればよかった②
プレイング・マネージャーであっても、部下の育成はできる
多くの職場で管理職は、プレイング・マネージャーとして奮闘する。実際は、プレイヤーのほうに重きを置き、マネージャーとしての仕事は少ない。裏を返すと、正社員の数を減らし、少人数態勢となり、各部署の過酷な業績目標は依然として存在し、社員間で過酷な競争が行われている。店舗間の競争が激しい外食チェーン店で、店長がマネージャーとして部下の育成に関わっている時間やエネルギーは少ない。
これも一気にすべてを変えようとしないことだ。まず、2人のフロアマネージャーに1日数回、報告を求めることから始めよう。すると、何らかの連鎖反応が起きる。そこから店舗全体の雰囲気が変わり、いい方向に進んでいくこともありうる。「プレイング・マネージャーだから、部下の育成ができない」のではなく、「プレイング・マネージャーであっても、部下の育成はできる」のだ。ささいなところから変えると意外なほどに変わることはぜひ、心得ておいてほしい。
神南文弥 (じんなん ぶんや)
1970年、神奈川県川崎市生まれ。都内の信用金庫で20年近く勤務。支店の副支店長や本部の課長などを歴任。会社員としての将来に見切りをつけ、退職後、都内の税理士事務所に職員として勤務。現在、税理士になるべく猛勉強中。信用金庫在籍中に知り得た様々な会社の人事・労務の問題点を整理し、書籍などにすることを希望している。