前回、ショッピングセンター(SC)業界から若手人材が流出する懸念について指摘した。今回解説するのは、もう一つの大きな課題、人材育成についてである。社員は、企業の成長分野に沿って蓄積すべきノウハウや取得する資格、業務遂行に必要な人的ネットワークなどのキャリアを形成していく。では、SC事業に関わる企業は育成方針が明確化されているだろうか。社員も「どんなキャリアを積み」「どんなノウハウを得」「自分を市場にマーケティングする人材になっていくのか」といったことを明確に認識しているのだろうか、この課題感の下、今号ではポストコロナの人材育成について考察していく。
SCのビジネスモデルは「不動産×テナント売上高」
SCの収益を規定するのは、不動産とテナント売上高の2つである。
不動産とは「商業用不動産」を指す。不動産の成長は、①物件数を増やす、②規模(面積)を拡大する、③資産価値を向上させる、以上3つの乗数を大きくすることである。要するに資産価値の高い魅力的な物件を数多く持つことである。
2つめのテナント売上高とは、「入居するテナントの売上高」のことである。日頃、SCが売上高と言うのは、入居するテナントの合計である。
では、「魅力的」な施設とは何か。それは立地利便性、物件の品質といった不動産としての価値、そして商圏力、集客力、テナントからの評価、顧客からの評価といった商業用不動産特有の価値を指す。
これらの物件を増やす手段は「新たに買うか、新たに造るか、既存を増床するか」の3つである。
ここで言う「商業用不動産の価値」とは、回遊性、快適性、店舗の視認性、リニューアルなどの可変性、商業空間としての賑わい、界隈性、滞在性、非日常性、周辺からのアクセスや高いデザイン性や商品の搬入動線や駐車場の停めやすさなどバックスペースも含めた価値の総体である。
要するに「顧客が来たい」「テナントが出店したい」と感じる魅力ある施設ということになる。
テナント売上高の重要性
SC事業では入居するテナントの売上高が重要である。
なぜならテナントの売上に連動する歩合賃料が設定されているからだ(図表2)。
SCはテナントの売上高が上がれば上がるほど賃料収入が増加し収益を押し上げる。そのために入居するテナントが営業活動をサポートする仕組み(現金預かり、釣り銭準備、クレジットカード決済システムなど)を整備し、販促活動を通してテナントの売上高を上げる支援をし、テナントの困りごとを解決するための現地スタッフを配置し、日々の営業を管理する
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