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中村栄輔社長が語る「モスバーガーでヒット商品が出続ける」仕組みと仕掛け

ほかのファストフードチェーンと一線を画す、日本発のオリジナル商品で知られるモスフードサービス(東京都)。しかし、低迷した時期もあった。2016年年6月に就任した中村栄輔社長は社内改革を断行、マーケティングと商品開発を一体化する組織体制で、多様化するニーズをとらえる商品作りができるようになった。その結果、「日本の生産地応援バーガー 真鯛カツ」やプラントベースの「グリーンバーガー テリヤキ」など人気商品が生まれた。中村社長に、自ら手がけた社内改革の内幕を明かしてもらった。

聞き手:阿部幸治(本誌)、構成:野澤正毅

プロダクトアウトからマーケットインへ

中村栄輔社長

――モスバーガーはコロナ禍でも業績好調が続いています。しかし、一時期は、業績が伸び悩み、若者の「モス離れ」なども囁かれました。2016年に中村社長が就任して以降、どのように業績をV字回復させ、さらなる成長へと導いているのでしょうか。

中村 ひと言で言えば、「多様化したお客さまの声を聞く」、その経営姿勢に徹したことです。モスバーガーの競争力の源泉は、差別化できる、付加価値の高い商品で、それは今でも変わりません。しかし、「よい商品を出せば、お客さまは来店してくださる」というプロダクトアウトの発想に捉われすぎていました。

そこで、「マーケットイン」の経営へと転換を進めました。そこで、見えてきたのが「ニーズの多様化」でした。そうした市場変化に適応できるように動き始めていた矢先に発生したのが、189月の食中毒事件でした。

――最悪のタイミングでした。

中村 売上が大きく落ち込み、創業以来の危機でした。しかし、「全社一丸となって、経営危機を乗り切ろう」という機運が一気に醸成されたので、社内改革を断行できました。ピンチがビッグチャンスになったわけです。背水の陣を敷くつもりで、全国のFC(フランチャイズチェーン)加盟店オーナーの皆さんに、「193月までに、売上を戻してみせます」と、宣誓して回りました。そして何とか計画通りに売上回復が達成でき、「有言実行」できました。

R&Dから販促まで一気通貫で、新商品を生み出す

モスバーガー 大船渡店

――1921年の中期経営計画では、ニーズの多様化に適応するために、社内改革でどのような手を打ちましたか。

中村 20197月からまず、人事・組織のあり方を刷新しました。中でも、いち早く商品部門の組織再編に着手しました。具体的には、マーケティング本部の中に、商品開発を担う商品部を取り込む体制にしました。

――商品部門の改革を急いだのは、モスバーガーにとって、商品力が生命線だからですか。

中村 そうです。商品部門には、お客さまの想像を超えるような斬新なアイデアを生み出す、クリエイティビティが欠かせません。今までの画期的な商品はプロダクトアウト発想の賜物です。とはいえ、「独立独歩でかまわない」というわけにもいきません。独自にこだわった商品開発が、多様化したニーズとのかい離を生んだとも考えたので、マーケティングで「どんな食材に人気が出そうなのか」「お客さまが何を望んでいるのか」といったことを念入りにリサーチしたうえで、商品開発のコンセプトを決め、それを商品部に落とし込むことにしたのです。

――「顧客の声」を聞きながら、商品を開発するということですね。

中村 マーケティング本部と商品部が一体化したことで、商品の研究開発の上流から、新商品を「どのメディアで、どのような方法で宣伝するか」といった下流の販促まで、一気通貫で連動できるようにもなりました。

 顧客の声を的確に聞き出すために、営業本部とマーケティング本部の連携も進めました。新商品のキャンペーンなどは、両本部が緊密に連携し、取り組む体制にしています。また、当社の店舗の8割はFC加盟店ですが、FC加盟店の互助組織である「共栄会」とも連携して、FCの意見や要望を集約し、結果をFCにフィードバックするサイクルも作り上げました。

社長も取締役も一斉にどれが良いのか手を挙げる経営会議

グリーンバーガー テリヤキ

――一方で、社内改革では、トップの経営体制も思い切って変えました。

中村 当社の取締役会も以前は、社長の下に、専務、常務を置くといった、ピラミッド型構造だったのですが、代表取締役と、社外取締役を含めた取締役だけのシンプルで、フラットな体制にしました。そのほうが、経営の意思決定がスムーズに、スピーディーにできると判断したからです。そして取締役会の下で、執行役員が経営実務を担う形にしました。

――新商品の開発など重要な経営の意思決定をする場合、社長をはじめ、経営層が集まる「御前会議」が開かれるわけですが、モスフードサービスでは経営会議も、社内改革によってガラッと変わったそうですね。

中村 既存の経営会議についてかねがね疑問を抱いていたのは、結局トップが「これがいい」と言ったら、ほかの役員は誰も異を唱えることができなくなってしまう雰囲気がありました。そこで、賛否を問うときに、私を含めた全員が、一斉にどれが良いのか手を挙げる仕組みに改めました。そうすれば、トップの意向を“忖度”しなくてもよくなります。例えば、新商品を決めるときは、役員だけでなく、プレゼンテーションの担当者も、「1票」を投じられるようにしました。つまり、現場の人間も、自分たちの「推しの商品はこれ」と、意思表示できる機会を与えたわけです。

――とてもユニークな取り組みですね。

中村 私は、なるべく「ノー」と言わない主義です。経営責任は取らなければなりませんが、自分一人で決めると、間違いが多くなると考えているからです。どんなに優秀な経営者でも所詮、一人の人間の能力は限られています。それならば、いろいろな人間の知恵を集めてみんなで議論したほうが、いい案が生まれるでしょう。それが、会議を開く意義だと思います。

――そうした社内改革の成果でしょうか。最近では、貴社のユニークな新商品が続々と登場しています。今年9月の「十五夜シーズン」には、「月見フォカッチャ」の売り切れが続出し、話題を集めました。

中村 例えば2021年にも、コロナ禍で出荷量が減っていた漁業者を支援しようと、愛媛県愛南町と提携して「日本の生産地応援バーガー 真鯛カツ」を期間・数量限定で発売したのですが、多くの店舗で早期に終売するなど大人気でした。また、環境問題への意識の高まりから、食肉などを使わないプラントベースの「グリーンバーガー テリヤキ」も販売しましたが、おかげさまで好評をいただいています。多様化するニーズに合わせた商品をこれからも開発して、お客さまのご期待に応えていきたいですね。