「サステナブルファッション」への取り組みの重要性が高まっている。これまでの産業構造にメスを入れるような側面もあり、覚悟の求められるアクション。そうした中で、業界を牽引し、持続可能なファッションに真摯に取り組むアダストリア(東京都/木村治社長)の事例から、その現在地と課題に迫った。
大量生産・大量消費・大量廃棄から循環型へ
大量生産、大量消費。これまでのアパレル産業は、より多く製造し、より多く売り捌くことで収益を拡大し、発展を遂げてきた。
だが、市場規模が停滞する一方で、供給量は増大。環境省が発表したデータによると、国内の衣服消費および利用状況は、1人あたり年間約18枚購入するのに対し、手放す服は約12枚。手持ちのうち、一年間で一度も着用されない服は一人当たり、25着もある。
明らかに供給過剰であり、消費者もすでに十分すぎる数の服を持っている。それでも、新製品を供給し続けることは「ファッションだから」と許容されてきた感も否めない。
とはいえ、昨今は地球温暖化を共通言語に、世界が環境負荷の低減に真剣に取り組むトレンドにある。もはや、国内ファッション産業においても、いかに環境に優しい製品づくり、流通を実現するかが、社会の公器の役割として避けては通れない重要なテーマとなっている。
持続可能なファッションの現在地
「サステナブルファッション」は、まさにそれを表現する言葉だ。地球が、人間が生活し続けられる場所であり続けるために、ファッション業界ができることはなにか、何をすべきなのかーー。日本のファッション業界は、サステナブルファッションでは先進諸国において、大きく遅れをとっているのが現状だ。
国内で早くからサステナブルファッションに取り組んでいるアダストリアの経営企画室 サステナブル担当である藤本朱美氏は「日本はサステナブルファッションではあらゆる点で世界に遅れをとっている。ようやく企業の社会的貢献というレベルから、社会課題の解決という段階へ進みつつあるのが現状」と説明する。
遅れをとる原因はいくつかある。最大の要因は、原料調達に始まり、紡績、染色、裁断・縫製、輸送、販売という製造プロセス全体の統制の難しさだ。例えばサステナブルファッションの実現には、環境負荷に優しい原料の調達が求められる。そうなると紡績が難しくなる可能性がある。染色にも影響は避けられない。そうした関係各所の調整は、極めて困難だ。欧米ではいち早く政府が規制をしたり、業界団体がルールや基準を設けて、そのルールに則ったものづくりが進んでいる。日本はそうした動きからは取り残されているのが実情だ。
アダストリアの取り組み
そうした中、アダストリアは2014年から持続可能なファッションを実現するための具体的なアクションを開始。2022年には、統合報告書の中でアップデートしたサステナビリティ方針と目標を掲げている。同報告書は、同社のサステナビリティの取り組みを余すことなく公開する決意表明書であり、重点課題に対する進捗状況をガラス張りにするものだ。
その中で、KPI(重要業績評価指標)に「2030年までに全商品のうち半分以上をサステナブルな原料・加工へと切り替える」「2050年カーボンニュートラルの実現」を設定。サプライチェーンも含め、温室効果ガス排出量の算定など、定量的な検証を強化したことを報告している。
他にも「グループ調達方針」を定めるなど、取引先との間で人権の尊重や環境配慮などの基準についても取り交わしを行なっている。さらに、「衣料品在庫の焼却処分ゼロ」も目標に設定し、グループの流通網を最大限に活用し、ファッションロスの最小化に努めていることを報告している。
これらは、原料調達から販売まで、自社で一貫して対応する体制が整っている同社だからこそ可能な先進的取り組みといえる。
施策は労働環境の改革まで
サステナビリティの推進に妥協なく取り組むアダストリアは、労働環境の面からも持続可能性を追求。2025年度までに女性の上級管理職比率を30%、女性管理職比率を45%以上に引き上げることを目指すほか、商業施設の新静岡セノバと協働し、実験的に営業時間のフレックスタイム制度や店舗別休業日を導入するなど、店舗で働く従業員の働き方改革にも着手し、販売員の働きがいや魅力の向上にまで対策を講じている。
やるべきことは山積しているものの、同社は着々とサステナビリティにおける各重点課題の目標達成に向けステップを歩む。そこに課題はないのか。藤本氏は「会社としては、随時、報告書やホームページを通じて進捗をオープンにしながら、定めた目標の達成へ向かっていく。ただ、CO2の削減については、個社だけではどうしても限界がある」と明かす。
業界共同による取り組みも
アダストリアも加盟する、2021年に設立された連合組織「ジャパンサステナブルファッションアライアンス(JSFA)」の設計は、そうした課題を打開する行政も巻き込んだアクションだ。大手を含む、ファッション・繊維企業が参画(会員企業19社、賛助会員25社)し、個社だけでは解決が難しい課題に対し、共同で向き合いながら解決策を探っている。
具体的には、統一の基準による単純焼却や埋め立ての可視化、回収、循環システムの試行、「カーボンニュートラル」に対する意義の理解醸成などだ。個社だけでは実行や浸透が難しい取り組みを共同で行うことで、より社会全体に影響が広がるよう、消費者や行政にも積極的に働きかけていく。
サステナブルファッションの真のゴール
持続可能なファッションは、突き詰めれば地球に生きる人間の生活に無理なく、自然になじむファッションといえるだろう。そうなれば、おしゃれの定義も変わってくる。これまでは個性をわかりやすく表現するアイテムだったアパレルだが、これからは、製造の背景にあるこだわりやストーリまでを包含した製品であることがより評価される。
製造プロセスで、原料やそれを栽培する労働者にまで配慮する製品を着用していることも含めた姿勢が「かっこいい」ーー。事実、業界、そして消費者にとっても、そうした価値観が少しずつ、浸透し始めている。
アパレル産業に到来したパラダイムシフト。そういっていい、サステナブルファッションという一大潮流。そこに調和するための取り組みの数々は、突き詰めれば「選ばれる企業」への変態のために他ならない。今後、海外への積極展開も見据える同社にとって、グローバルスタンダートへのキャッチアップは至上命題でもある。
実現へ向けた、数値目標や達成期限も明確に定めているが、真のゴールは、そこではないはずだ。社会全体が「持続可能なファッションこそおしゃれ」、そう認識した、その時だろう。