全面安売り戦争は勝者なき不毛な戦い、これからは知恵の勝負になる=全日本食品 齋藤充弘 社長
「お客さまは安いことの何倍も高いことが嫌い」
──では、どのような手を打つのかそのベースとなるお考えだけでも教えてください。
齋藤 間違いなく言えることは、ダメな店は高い、けれども安い店がすべて調子がよいとは限らないということ。今の時代、高いという烙印を押されたら負け組です が、すべての商品を安くしようと頑張ったら、これまた負け組になる。全面安売り戦争では誰も勝てないのだから、どこで“寸止め”できるかが重要なのです。
同じ10%安く販売したとしても、消費者にとって“こんなに安くお得に見える”10%と“あまり安くは見えない”10%があります。つまり、表現 の仕方や、打ち出すタイミングなどによってその効果は大きく変わるということです。知恵をどう絞るかということが大切になります。
いちばん重要なことは、「お客さまは安いことの何倍も高いことが嫌い」だということ。他店よりも10%安くて集められる客数よりも、他店よりも 10%高くて失われる客数のほうが何倍も大きいのです。これは、02年にノーベル経済学賞を受賞したダニエル・カーネマンの『プロスペクト理論』です。だ から、“勝つこと”を目的にすると、他店の何倍も労力が必要なため、負けてしまうのです。いかに“負けない”かに徹することが大事です。価格競争で「負け ない」ということと「勝つ」ということとは全然意味合いが違うのです。
つまり、お客さまに高いと感じさせなければよいわけです。それが“寸止め”の最大のポイントです。するとどういう局面なら高くても買うし、どういう局面なら安くなければ買わないのかという購買局面も問題になってきます。
──それが全日食チェーンで“最適売価”と呼んでいる商品施策ですね。今後、さらに新たな施策を打つと聞いています。
齋藤 先述した大手GMS企業さんが、ふだんの価格を下げているため“最適売価”が通用する場合となかなか通用しない場合がでてきました。だったら、“最適売 価”が通用しない商品が何なのかを選び抜いて、その商品だけねらい撃ちする格好で、“最適売価”をもう一段変化させればよいのです。これが、私どもが10 月26日から打っている政策で、『戦略売価』と呼んでいます。
これは、競争環境が変化する中で、店にとっていちばん儲かる売価ではないけれども、競争を生き抜くためにはこの値段がよい、というものです。理論上は、店の売上が3.5%増えると見込んでいます。
10年から新販促サービス「ZFSP」スタート
──さて、もう一つの新たな商品施策として、10年からはFSP(フリークエントショッパーズプログラム)を活用した新販促サービス「ZFSP」をスタートさせます。優良顧客に対して、顧客の購買履歴に応じて割引クーポンを発行する試みです。
齋藤 たとえば「明治おいしい牛乳」は、普通の牛乳を飲んでいる人が、時々「明治おいしい牛乳」を飲んでいるのか、それとも「明治おいしい牛乳」を飲むと決めて いる人が飲んでいるのかといえば、後者が正解です。つまり、いつも「明治おいしい牛乳」を飲む人にうちのPBの牛乳を安く売っても何も意味がないというこ とがわかります。
「わざわざ特売の日を待たなくても、明治のおいしい牛乳が毎日この値段で、安心して買えるのなら助かるわ」とお客さまに感じていただいて、わざわざチラシを調べなくてもいい状況、つまり“脱チラシ”という状況をつくっていくのが、このFSPの1番めのねらいなのです。