東日本大震災の影響を受けたものの、2012年3月期は堅調なスタートを切った原信ナルスホールディングス。商品政策(MD)において昨年から「ニューコンセプトパート2」を導入し、従来のミールソリューション志向に加えて、ビジュアルを重視した売場づくりが徐々に生活者に浸透しつつある。震災後に変化した生活者の消費動向をどのようにとらえ、対応しようとしているのだろうか。
地元の大学に協力を仰ぎ放射能に
対する正確な理解を深める
──2012年3月期の第1四半期の決算は、売上高が対前年同期比2.3%増の301億2800万円、営業利益が同3.6%増の9億9600万円と堅調でした。
原 東日本大震災の影響を受け、商品供給や物流機能が混乱する中、無我夢中でやってきたのが第1四半期でした。震災直後はお客さまの購買行動が急激に変化したために商品需給のミスマッチが起こり、一部の商品では一時的に調達不足になりました。しかし、商品不足については4月の上旬には徐々に解消していきました。昨年の春先は青果物の高騰で売上が底上げされていましたが、それを超える売上を残すことができたことに、ひと安心しています。
──生活者心理が変化し自粛モードも広がりましたが、どのように対応されたのですか。
原 震災直後は社会全体の自粛傾向が顕著となり、食事は外ではなく、自宅で済ませようという内食回帰の動きが強まりました。この動きは、われわれにとっては追い風になったと考えています。4月中旬から自粛モードは下火となり、ゴールデンウイーク前には自粛していては復興にとってプラスに働かないというムードに変化していきました。6月末までにはメーカーさんからの商品供給がほぼ正常化し、震災の影響はほとんど感じなくなりました。7月は梅雨明けが早く、売上は好調に推移しています。
──牛肉をはじめ、放射性物質拡散による生産物の安全性への関心が高まっています。
原 注意を払うお客さまは非常に多い。とくに小さなお子さまのいる家庭で顕著です。牛肉の県名表示を始めた小売企業もありますが、これは安全を保証したものではなく、お客さまを余計に惑わすことになると危惧しています。すでにトレーサビリティが確立されているので、お客さまから産地はどこかと店頭で聞かれたらその場でお答えすればよいことではないでしょうか。しかし、牛肉の安全性についてお客さまが不安を感じているのは事実です。このため、当社では牛肉の主な仕入れ先と協力し、7月下旬から入荷する牛肉についてはほぼすべて放射線の検査をおこなっています。検査費用の負担はありますが、それぐらいの対応をしないとお客さまが安心できない状況にあります。
政府に対しては新日本スーパーマーケット協会(横山清会長)、日本スーパーマーケット協会(川野幸夫会長)、オール日本スーパーマーケット協会(荒井伸也会長)が合同で全頭検査の申し入れをしており、早期に実現されることを願っています。新潟県では8月1日より県内から出荷される牛の全頭検査を開始しました。迅速な判断として評価しています。
──放射能に対するリスク管理として、どのようなことを実践していますか。
原 地元の国立長岡技術科学大学にお願いをして、講師を派遣していただき、研修を実施しました。放射能に関する正確な知識を取得できたので、お客さまに対して安全性をきちんと伝えられるようになりました。ただ、お客さまの不安が続くようであれば、検査体制の強化を検討する必要がでてくるかもしれません。放射能問題以外でも、品質安全室によるPB(プライベートブランド)商品の安全性の確保や、生鮮作業室の衛生管理の徹底に取り組んでいます。
高質感のみに偏らず
ふだん使いにこだわる
──昨年3月、長岡市内に「原信 美沢店」を開業したのを皮切りに、新たなMD「ニューコンセプトパート2」を実践しています。進捗状況はいかがですか。
原 「豊かで楽しい売場づくり」をテーマにミールソリューションに力を入れた食卓提案型の売場づくりを行ってきました。これが「ニューコンセプト」の考え方です。美沢店ではさらに進化させて、ビジュアルマーチャンダイジング(VMD)を大胆に取り入れた新たな売場づくりに取り組んでいます。開業から約1年半が経過しましたが、予算をクリアしています。周辺には自社の店舗が多く、自社競合が予想されましたが、既存店の落ち込みは想定の範囲内でした。美沢店と既存店舗を使い分けしているお客さまもいて、エリアのシェアは高まっています。
──社員が色彩士資格を取得するなど、VMDへの積極的な取り組みが目立っています。
原 ビジュアルに関する意識はこの1年間で急速に高まり、社員自ら売場の演出を考える土壌が生まれてきました。節電対策の一環として、売場でメリハリのある照明を導入するときにも、社員は積極的に考えてくれました。きれいにまとめて、買物が楽しくなる売場の管理能力は確かに向上しました。反面、本来持っていた売場の力強さや迫力が少なくなったことも事実です。見た目の華やかさや高質感に目を奪われてしまったきらいもあるように思っています。
──現在の美沢店の課題は、どのようなことですか。
原 美沢店では従来扱っていなかった高付加価値の商品を揃えています。しかし、従来と同じ売り方では、お客さまに買っていただけません。商品回転率が低く、ロスになる可能性も高い。今まで以上に手間ひまかけて、お客さまにアピールしていかなくてはなりません。
また、生鮮部門ではプロセスセンターの稼働率を上げることを課題として取り組んでいます。通常ならば店内加工のオペレーションを減らした分、社員を少なくして経費削減を図るのが定石です。しかし、当社では余裕のできた分を付加価値のある売場づくりに割き、ノウハウを積み上げてきました。一方で、これからは生産性も重視しなければならないと考えています。
──売場では価格の打ち出しも目立っています。高付加価値と低価格をともに追求することは可能ですか。
原 価格訴求も「ニューコンセプトパート2」の重要な要素です。単品で日本一の販売量をめざす取り組みを始めてから2年が経過しました。昨年6月からは低価格かつ品質のよい「パワーアイテム」を導入しています。1個20円のミルクパンや29円のコロッケ、68円のおにぎりなど定番商品で価格を打ち出しています。
高付加価値と低価格の追求は「ニューコンセプトパート2」の両輪です。お買い得な商品がいつもある一方で、頻度が高くないけれども生活に密着した高付加価値の商品も提案する。われわれは高質さを追求するのではなく、あくまでふだん使いの食品スーパーを志向しています。たとえば、入口付近で展開している「カジュアルフラワーミックス」では198円の売価ラインで生花を揃えました。食卓を彩る生花を2週間に1回でも買っていただければ、晴れやかな気分を感じていただけるはずです。こうした気持ちは高質さではなく、豊かさであると思っています。
── 一方で原材料価格が上昇していますが、売価にはどのように反映させるのでしょうか。
原 原材料の高騰はまさに世界的な潮流です。取引のあるメーカーさんには原材料の使用割合などを教えていただき、整合性のある値上げであれば受け入れざるを得ないでしょう。しかし、お客さまからの問い合わせが多いため、納得できる理由がなければ受け入れは難しいのが現状です。
──昨年2月から導入された生産性向上や売場改善の成功事例を全社で共有する「改善事例バンク」の活用状況はいかがですか。
原 最近は売場の改善事例だけではなく、コスト削減や生産性の向上につながる事例が集まっています。しかし、同様の改善事例が後日、他の店舗からも挙がってくることがありました。本来ならば本部が標準化する手順をきちんと整えていれば、改善の必要がない項目も多く、本部の努力が足らないと痛感することもあります。こうした反省を生かして、本部の役割を見直しています。
今秋から新潟県全域で
ネットスーパーのサービスを開始
──さて、今後の出店戦略についてお聞かせください。
原 2014年度末までに74店舗体制とすることを計画しています。出店エリアは物流センターからクルマで2時間以内の配送距離という方針は変わっていません。つまり新潟県と富山県の全域、そして長野県の一部が出店エリアとなります。
──出店は順調なようですが、ドミナントエリア内の少子化、高齢化、過疎化の問題は深刻ではないですか?
原 ご指摘の通り、新潟県では人口減少が止まりません。とくに高齢化の進む郡部でその傾向が顕著です。こうした郡部にある小売店が閉店するケースも増えています。今のところ、当社は商圏人口の少ない郡部への出店や、クルマでの移動店舗を展開する計画はありません。しかし、店舗の機能を強化するために、今秋から新潟県全域でネットスーパーのサービスを始める予定です。
原信の店舗では毎週木曜日にシルバーズデイを実施しています。65歳以上のお客さまが当社の「シルバーカード」をお持ちいただくと、商品が5%引きになるサービスです。木曜日には「シルバーカード」をお持ちの方がお子さまやお孫さんを連れて来店するケースが非常に増えています。また、少子化対策では9市町村と提携し、子育て支援策に協力しています。たとえば、新潟市では小学生以下のお子さまがいらっしゃる家庭に「にいがたっ子すこやかパスポート」を発行しています。これを日曜、祝日にご持参いただければ、5%の割引サービスを提供しており、好評を得ています。
──最後にアークス(北海道/横山清社長)とユニバース(青森県/三浦紘一社長)が経営統合を発表しました。どのように受け止められましたか。
原 地域のお客さまにご利益を提供できるのであれば、素晴らしい判断をされたと思います。当社も将来的には200店舗体制をめざしており、その方法としてM&A(合併・買収)も選択肢のひとつだと考えています。アークスさんとユニバースさんはともにCGCグループ(東京都/堀内淳弘代表)のメンバーで交流も深く、アークスさんの純粋持株会社体制による経営スタイルは当社の見本にもなっています。今回の経営統合によって再編機運が高まっていくでしょう。
当社は06年4月に純粋持株会社体制への移行による経営統合に踏み切りました。それから5年が経ちましたが、企業文化の異なる会社が一緒になるには時間が必要になります。今期を仕上げの年と位置付け、最も重要な人事制度の統一を行いました。双方のメリットが大きいM&Aについては、今後も前向きに検討していく考えです。