社長はYouTuber? 佐賀県のローカルスーパー「ファインズたけだ」が日本一面白いワケ

棚橋 慶次
Pocket

知識ゼロからスタートした動画制作

 「おたくのネット対応遅れているよ」。前社長だった母親が、商工会議所の会合でそんな忠告を受けたのがきっかけだった。忠告を受けてよく周りを見渡してみれば、確かにGoogleマップに掲載される店舗情報も不正確なままで、「店に関して正しい情報、詳しい情報をまったく発信できていなかったことに気づいた」と同社竹田智史社長は話す。

 情報を広く周知するためにはどうすれば良いか、ということを突き詰めた結果、動画配信に行き着いたのが今から4年前のことだ。ただし、当時はまだ動画配信というものがメジャーになる前だった。竹田氏自身に動画制作経験があるわけでもない。動画編集のノウハウもまだまだ特別なもので、容易に手に入るものではなかった。

 そこで竹田氏は、自ら動画編集経験者に話を聞きに行ったり、YouTuberが集まるオフ会に参加し情報交換をしたりして技術を磨いた。このチャレンジ精神が実を結び、今ではTikTokのフォロワー2万8000人(22年3月現在)、総「いいね」数は80万を超えるまでになった。10分程度の長さの企画動画をYouTubeで、店内で放送している独特のユニークなアナウンスを切り取ったショート動画などを主にTikTokで配信しており、現在の傾向としてはショート動画の反応が良いという。「店の雰囲気がわかる」「ライブ感が楽しめる」などの感想がショート動画には寄せられており、「実際に自分の目でパフォーマンスを見てみたい」「行って雰囲気を味わってみたい」という来店動機の喚起に役立っている。

TikTokのトップページ。動画のサムネイルを見るだけで楽しそうな雰囲気が伝わってくる

 ここで欠かすことができないのが、実弟である副社長・竹田温史氏の存在だ。もともと目立ちたがりで表に出ることが大好きな性格だという温史氏。動画内では芸人顔負けの活躍ぶりで、歌って踊れるメインキャストとしての役割を温史氏が、動画企画や編集などを主に兄である智史氏が行っているという。

 企画力や編集力にも驚かされる。「副社長にストリート替え歌で勝ったら1000円」「スーパーマーケットの店員によるサイン会をやってみたら面白いことになった」など、一見スーパーマーケットが作ったとは思えない動画が並ぶ。テロップや効果音の使い方も流行を押さえており、スーパーマーケットのPR動画を見ているというよりはお笑いチャンネルを見ている感覚だ。こういった斬新さや、純粋に楽しみながら見ることができる点が、かえって店への興味を惹きつける要因になっていそうだ。

1 2 3

関連記事ランキング

関連キーワードの記事を探す

© 2024 by Diamond Retail Media

興味のあるジャンルや業態を選択いただければ
DCSオンライントップページにおすすめの記事が表示されます。

ジャンル
業態