第287回 渥美俊一「大店法がある限り、流通革命は起こらない」の真意とは
評伝 渥美 俊一(ペガサスクラブ主宰日本リテイリングセンター チーフ・コンサルタント)
「1.3×1.3×1.3=……」
渥美俊一が称揚したように、「100倍×100倍=1万倍」という単純な計算を10年、20年と費やして現実のものとしていくことを、ダイエーはたしかになしえた。
それは、きりのいい数字を景気よく語呂合わせのように並べた算式のようでもあるが、そうであるばかりともいいきれない。渥美のレトリックの妙は、こうしたところにある。
渥美の著書『小から大への成長法則 ビッグストアづくりの急所』(商業界・2004年)などでも詳述されているが、《私のいう「100倍」とは、「1+99」という考え方に基づいている》との前提に立つ(引用に際しては漢数字を算用数字に改めるなどする。以下同=引用者注)。
「1」は現状で、「99」はまだ存在していないことと考える。したがって、現状否定という原則により「1」を無視し、不可能常識に挑戦して「100倍」、「1000倍」、やがて「1万倍」をめざすのである、ということを意味した。
以前にも記したことだが、渥美のチェーンストア経営論の原理原則であるがゆえ、いま一度、あらましに限ってふれておきたい。
1年に10%の成長であるなら、1.1倍であり、仮に10年連続でそれを果たしてもトータルで2.6倍、20年後でも6.7倍にとどまる。1年に1.2倍であるなら10年で6.2倍、20年で38倍になる。1.3倍では10年で13倍、20年で190倍と桁違いの成長になる。
渥美の経営指導は、こうした説明を施したうえで、「1.3×1.3×1.3=2.2」というように、3つのことを毎年、同時に3割ずつ増やせば、1年で2倍以上になる、と示し、3年で8倍、5年で32倍、10年で1024倍と数字で圧倒させる。
「3つのこと」とは、たとえば