(中国に進出した)ある小売業トップの中国市場展望
日本から中国に進出する流通企業は少なくないが、その経営実態は火の車になりつつある。好調に推移した去年の夏までと一変、10月ごろからは、どの店舗も大変苦労を強いられている。
その大きな理由は人手不足からくる人件費の増加だ。対前年度比で2割はアップしている。小売業で人件費が2割アップすれば、黒字の店舗でも一挙に赤字になってしまうのはご存知の通り。
しかも、2割アップしているにもかかわらず、従業員の定着率は悪く、頻繁に入れ替り、効率は上がらない。
働き手は、農業従事者は製造業に。製造業で働いていた人間が小売業などのサービス産業に動くのが通例だ。労働環境が良くて、楽な仕事が人気になっている。
消費地としての中国は依然、将来有望であり、まだまだ伸びると言っていい。
しかし、消費の伸び以上に人件費のアップが大きくなってきており、流通業の経営環境は急激に厳しくなっている。
ここにきて、競合激化はさらに熾烈を極めている。
去年の初めに「2級都市に勝機あり」ということで、200万人クラスの都市にショッピングセンター(SC)を開業することがトレンドになった。ところが繁盛することがわかるとすぐに2か所目、3か所目のSCが出店する。
消費の伸びが2ケタしかないのに、店舗は2倍、3倍の割合で増える。その結果、SC自体が過当競争になる。そこに入っているテナントにとっては完全にオーバーストア。それに加えて人件費が2割アップする――。
これでは儲かるはずがない。
さらには「一人っ子政策」の弊害も明らかになってきた。春節休み後には、製造業なら3割の従業員が職場復帰しない。1000人いると300人は戻ってこないという状況が、毎年繰り返されている。
「一人っ子政策」がスタートしてからすでに32年が経過。いまの20代は全部一人っ子で、帰郷すれば、50~60代の両親に泣かれ、引き留められ、家業を継ぐのは必至の状態だ。
その意味で言うなら、東京が繁栄したのは、二男、三男、四男のおかげ。長男は田舎に残ったけれども、それで東京が栄えた。
その上、中国政府は沿海部からあがった資金を内陸部開発に充てており、内陸でも働く場所に困らなくなっている。どうあれ儒教精神の国だから、両親は大事。これは、これからずっと続く。
そういう経緯の中で、中国市場は巨大な需要ほどは、おいしくないマーケットになりつつある。
いまや猫も杓子も海外市場を目指すようになっているが、今後の中国進出は慎重にすべきであろう。市場調査も十分に。そして、状況は時々刻々と変わっているから、慎重に取り組むにこしたことはない。
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