アングル:自閉症を「IT戦力」に、米就労支援の最前線

2019/05/15 10:50
    ロイター
    Pocket

     5月7日、国際会計事務所アーンスト・アンド・ヤング(EY)のデータベースエンジニアの職を得て、米南部アトランタから居を移したクリス・イーストンさん(23)は、多くの移住者と同じようにシカゴの厳しい冬に慣れる必要があった。豪シドニーで2016年4月撮影(2019年 ロイター/David Gray)

    Beth Pinsker

    [ニューヨーク 7日 ロイター] – 国際会計事務所アーンスト・アンド・ヤング(EY)のデータベースエンジニアの職を得て、米南部アトランタから居を移したクリス・イーストンさん(23)は、多くの移住者と同じようにシカゴの厳しい冬に慣れる必要があった。

    さまざまなワーク・ライフ・スキルとは別に、発達障害の一種である自閉症スペクトラム障害(ASD)を抱えたイーストンさんは、ミシガン湖から吹いてくる凍えるような風に耐えるコツを学んだ。重ね着することだ。

    「ジョージア州とシカゴはだいぶ違う。かなりの変化だった」とイーストンさんは語った。

    EYは、ASDを持つ人材を雇用し、社内でサポートしている数少ない大企業の1つだ。こうした採用は、社会的コミュニケーションが困難な人に適した、専門性の高い技術職に集中する傾向が高い。

    こうした事例はまだ少数にとどまっている。米マイクロソフトのプロジェクトでは数十人程度。最近採用を始めたコンサルタント会社デロイト・アンド・トーチは8人のみ。米パソコン大手のデル・テクノロジーズは2018年夏に3人を採用し、今年はその数を倍にする予定だ。

    一方、雇用ニーズは飛躍的に高まっている。

    2024年までに110万件のコンピューター関連の求人が出ると見込まれているが、米国の卒業率はそのニーズに追いつかない、とデルで退役軍人や障害者の採用を担当するルー・キャンディエロ氏は指摘する。「有能な人材を集めるためには、考え方を改める必要がある」

    世界全体で推定7000万人とも言われるASDを抱える人々のうち、約8割が無職もしくは著しく能力以下の仕事に従事していることを考えると、この「ニューロ・ダイバーシティー(神経多様性・脳の多様性)」層には大きな可能性がある。

    ASDの人材向け雇用プログラムによって、全体で年200人が援助されてはいるものの、大多数は高校を卒業した後、「ソファーで過ごすしかない」生活を送っている。非営利団体スペシャリステルネUSAを率いるタラ・カニンガム代表はそう語る。

    同団体は、マイクロソフトやEY、金融大手JPモルガン・チェース、ビジネスソフトウエア会社SAPと共同で「自閉症@ワーク」を展開している。こうしたプログラムが実を結ぶ一方で、数十万人が高校を卒業したまま、労働市場に加わることができずにいる状況だ。

    <才能発掘>

    重要なテクノロジー職に就く人材の発掘は、地域の社会福祉機関という小さな場所から始まる。

    例えばニューヨーク市周辺とニュージャージー州北部であればグッドウィル・インダストリーズが、地元の学校やコミュニティーセンターと連携し、無職もしくは不完全雇用の状態にあるものの、より良いスキルをもった人材を発掘している。

    コーチングや細部に気を配ることで、問題が解決することもある。グッドウィルのデイサービス担当ディレクターのセリーナ・カバルッチ氏は、ある若い男性は小売職を希望していたが、地下鉄は刺激が多すぎるため通勤が困難だった。そのため、コーチが目的地まで行けるバスルートを探し、面接の準備を手助けした。

    その他にも、年4回行われるマイクロソフトの「ブートキャンプ」のようなプログラムを通じて採用に至るケースもある。ここでは5日間のグループプロジェクトに参加して、レゴ・マインドストームのロボットキットを作ったり、マネージャーとの面接を受けたりする。

    同プログラム参加者の約半数は、以前マイクロソフトに応募して不採用となった人々だ、と同社でインクルーシブ採用とアクセシビリティーを担当するニール・バーネット氏は説明する。

    「誰が誰と作業にあたり、誰がいらだちを示すかを見ている。人々がどこでもっとも輝けるのかを見極めようと努めている」と語った。

    一部の求職者は、EYのイーストンさんのように、大学卒業資格を持っていない。その一方で、大学院の学位を持っていても不完全雇用の状態にある人もいる。

    「それぞれのポテンシャルをどう見つけるかが大事だ」と米国で障害者の就労を支援するCSAVRのディレクター、キャシー・ウエストエバンズ氏は語った。

    彼女のクライアントの1人は、数学の学位を持っていたにもかかわらずスーパーの駐車場でカート回収の仕事をしていた。支援によって、この男性は、IT企業のエンジニア職に就くことができたという。

    <職場での支援>

    採用後、職場で支援を受けることも可能だ。米国では職場に慣れるまで3カ月にわたりジョブコーチをつけるための連邦制度があり、資金は国が負担している、とウエストエバンズ氏は指摘する。

    職場での配慮について、問題を発見するにはコツがある。

    スペシャリステルネでは、スタッフがオフィスをくまなく歩きまわり、においと蛍光灯などをチェックする。「これらは自閉症の人たちにダメージを与える。照明をLED(発光ダイオード)に替えて、一部の人には香水をつけないよう頼めば、皆にとってベターな職場になる」とカニンガム氏は語った。

    また、マネジャー側にも、明瞭に語りかけ、文書で指示を与えるためのトレーニングをすることは、障害を持つスタッフだけでなく、すべてのスタッフに有益だという。

    「具体的に何が、いつ必要なのかを明確に伝えなければならない。そしてチームメンバーに今聞いたことを繰り返させる。その上で自席に戻り、先ほどの内容をメールする。そして20分後に彼らに確認する。これは誰にとっても良いことだ」と同氏は言う。

    こうした一連の過程がうまくいくと、人生が変わる。

    EYのニューロ・ダイバーシティー・プログラムのリーダーを務めるハイレン・シュクラ氏は、採用した若い男性スタッフが変貌を遂げた例を挙げた。

    この男性は以前、実家で両親の支援を受けて生活していた。だが最近、彼の父親が亡くなると、自分で家を購入し、母親の面倒を見るために新居に呼び寄せることができたという。

    「だからこそ、このプログラムについて声高にアピールしているんだ」とシュクラ氏は語った。

    (翻訳:宗えりか、編集:下郡美紀)

    関連記事ランキング

    関連キーワードの記事を探す

    © 2024 by Diamond Retail Media

    興味のあるジャンルや業態を選択いただければ
    DCSオンライントップページにおすすめの記事が表示されます。

    ジャンル
    業態