リテール・ストラテジーセンター社長 ブライアン・ウルフ
ウォルマート対策には無駄のない経営と、価格差を感じさせない工夫が不可欠
たとえばホールフーズ・マーケット(Whole Foods Market)のように、生鮮食品の取り扱いが多く、新鮮さを売りにしているSMが成功しています。ホールフーズ以外にも、ドロシー・レーン(Dorothy Lane)やパブリックス(Publix)など、生鮮食品に力を入れている企業は好調です。しかし、サンフランシスコのアンドロニコス(Andronico’s)のように、生鮮食品に力を入れていて、店づくりやプレゼンテーションも素晴らしいのに倒産してしまう企業もあります。経営上は、生鮮食品の鮮度と品質だけでなく、コストとのバランスが重要になってきます。
──2つめのトレンドとして挙げられたコスト削減には、どのような取り組みがありますか?
ウルフ SM大手のクローガー(Kroger)が好例です。同社は7~8年前から事業全体を再評価し、人件費、広告費をはじめ、その他すべてのコストを見直す戦略をとってきました。ウォルマート(Walmart)と競争するためには、部分的にコストを削減するのではなく、コスト構造を全体的に下げなければならないと気付いたからです。さらに、英テスコ(Tesco)のFSP(フリークエント・ショッパーズ・プログラム)の取り組みで知られるダンハンビー社と組んで、基本的にはテスコと同じような顧客情報の分析や活用をしており、成功しています。
ウォルマートのように低コストで運営できる大手企業と戦うためには、コスト構造を見直して簡略化し、より無駄のない経営をしなければ生き残れません。
日本の多くのSMのように、週3回チラシを打ち続けるのは非効率だと思います。ディスプレーの変更や、売れ残った在庫の処理など多くのムダが発生するからです。今後、高齢化や人口の減少が進む中で、経営のスリム化はますます重要になります。人口が減少すると顧客の数が減るので、売上の伸びが期待できなくなり、企業もコスト削減を余儀なくされるためで、進歩的な企業はすでにそうした取り組みに着手しています。
──ウォルマートに対し、SM各社はどのように差別化を図っていくのでしょうか。
ウルフ ウォルマートとSMは、ビジネスモデルが異なります。ウォルマートはエブリデイ・ロー・プライス(EDLP)であり、SMは特売で集客するハイ・ローの価格設定が基本です。両者には大きな違いがあり、ハイ・ローで展開するSMは、よほど大きな変革がない限りEDLPよりコストを下げるのは困難です。
典型的なSMは、ウォルマートに比べて8~12%価格が高いことがわかっています。ウォルマートとの価格差を不明確にするようなプログラムを導入する「マディング・ザ・ウオーター(muddying the water:水を濁す)」作戦もありますが、これが成功するかどうかが課題です。