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EC業界の生成AI活用事例1 文章作成からデザインまで大幅な工数削減を実現!

前回の記事で、小売業における生成AIの活用について、具体例を挙げてご紹介しました。今回は、そんな小売業界の中でもより生成AIとの相性が良いと言われているEC業界について、その活用法をより詳しくご紹介しましょう。

Georgijevic/istock
Georgijevic/istock

 そもそも、生成AIを活用して文章やクリエイティブの作成をするためには、AIに学習させるためのデジタルデータが必要です。前回の記事でもご紹介したように、実店舗を中心とした小売業界では、まだまだ紙の書類や手書きのアナログデータが多く、生成AIを導入するためには、まず、その膨大なデータをデジタル化する必要があります。その点でいうと、ECは商品名、画像、説明文などすべてがデータ化されているため、小売の中でも生成AIとの相性が非常に良い業界といえるでしょう。

商品説明文作成における生成AIの活用

 ECサイトは接客を行えないぶん、商品の魅力を伝える文章は売上に大きく左右する要素です。しかし、工数もかかるうえに個人差も出てしまうため業界を通して人材不足が課題となっています。そんなEC業界において、生成AIはクリティカルな課題解決につながるツールとして注目されています。

 とくに、ECにおける商品説明文の作成は、AIが最も得意とする分野の1つです。たとえば、商品名や商品の特徴、細かな説明文にいたるまで、生成AIを活用すれば大幅に制作工数を削減することが可能です。

 実際に、日本国内でも、ECカートを提供している企業がいくつか存在しています。その中でも「ベース」や「カラーミー」などのプラットフォームは、商品説明をAIが自動生成するサービスを提供しています。そのほか、フリマアプリの「メルカリ」や「ペイペイフリマ」も、出品時にAIが商品説明文を作成してくれるサービスを開始しています。

 また、すべてのEC事業者にとって必要不可欠なものではありませんが、多言語展開においてもAIは非常に有用です。日本語のコンテンツを米国や欧州に展開する際、翻訳者に依頼するとどうしてもコストが掛かってしまいますが、AIを使えばほぼ無料で多言語対応できるというコスト面でのメリットもあります。

 ただし、まだまだ課題も残されています。たとえば、洋服の商品説明を作成する場合、「ワンピース」「赤」「サイズS」と入力しても、さらに細かい特徴や消費者が購入したくなるような文章を作るのは難しいです。

 単純なインプットだけでは、満足できる商品説明を生成することができません。商品説明文をAIに生成させるためには、いかに予め十分な情報をインプットできるかどうかにかかっています。

 一方で、検索エンジンで上位表示をねらう一般的なSEO記事などの作成は生成AIに向いています。なぜなら、商品固有の特性を整理する必要がある商品説明と異なり、SEO記事はその商品のディテールを詳細に紹介する必要がありません。

 多くの学習データを必要としない点で、すぐに生成AIを活用しやすい分野といえるでしょう。

ECサイトデザインの生成AI活用

 生成AIは、ECサイトのデザイン作成にも活用されつつあります。従来、ECサイトのデザインには多くの要素を考慮し、方向性が固まった後にデザイナーに発注して複数のデザイン案を作成してもらうという流れが一般的でした。

 しかし、現在では「Create.xyz」など、AIを活用したサイトデザインツールが登場しています。これらのツールでは、たとえば「女性用コスメ・小物販売のECサイト」という指示を入力すると、自動で複数のページがヘッダー・ファーストビュー・フッターに至るまで自動生成されます。

 このツールのメリットは、自動でデザインが生成される点にありますが、実際の運用においては70点から80点のデザインが生成され、その後人間が手直しを加えることで素早くサイトデザインが完成できる点にあります。このアプローチは、とくに小規模な店舗など、時間やコストをかけたくない場合に最適です。

 さらに、AIはサイト訪問者の動向を分析し、どの部分を改善すべきかを指摘することも可能です。これにより、ECサイトのユーザー体験を向上させるための自動化された改善が実現されつつあります。

 たとえば、ヒートマップを活用してサイト内での回遊状況を可視化し、そのデータに基づいてページの変更点を自動で提案し、実行することができるツールも登場しています。このような技術は、EC業界において今後さらに大きな可能性を秘めています。

 このように、EC業界における生成AIはクリエイティブで多くの時間を要する初期作成のリソースコストを大幅に削減することが可能です。その分、膨大なテキストコンテンツを作成したり、クオリティアップのための手直しにより多くの時間を割くことが可能になるでしょう。

 今回ご紹介した生成AIの活用例はまだまだほんの一部です。生成AIは、しっかりと情報を学習させることで商品の魅力を伝えたり、デジタル上での接客をリッチにするなどまだまだ大きな可能性を秘めています。

 次回からは、そんな売上アップや顧客満足度を向上させるような生成AIの活用法をご紹介しましょう。