アングル:アマゾンのMGM買収、反トラスト法違反の立証に高い壁

ロイター
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アマゾンとMGMのロゴ
5月26日、 米アマゾン・ドット・コムが映画製作大手、メトロ・ゴールドウィン・メイヤー(MGM)の買収を発表したことで、かねてアマゾンの市場支配を批判してきた米議員らは、さらに攻撃を強めるだろう。写真はアマゾンとMGMのロゴ(2021年 ロイター/Dado Ruvic)

[ワシントン 26日 ロイター] – 米アマゾン・ドット・コムが映画製作大手、メトロ・ゴールドウィン・メイヤー(MGM)の買収を発表したことで、かねてアマゾンの市場支配を批判してきた米議員らは、さらに攻撃を強めるだろう。しかし、専門家によると今回の買収には、典型的な反トラスト法(独占禁止法)上の懸念材料がほとんど見当たらない。

ジョシュ・ホーリー上院議員(共和党)は買収発表から約1時間後、アマゾンは「独占プラットフォーム」だとツイート。「この買収を実行させるべきではない」とし、アマゾンによるどんな買収も許してはならないと続けた。

上院司法委員会の反トラスト小委員会で委員長を務めるエイミー・クロブシャー上院議員(民主党)は「この買収が競争を阻害するリスクがないよう、徹底的な調査」を求めた。

米首都・ワシントン特別区のラシーン司法長官は25日、アマゾンを不当な価格戦略による反トラスト法違反で提訴したばかりだった。

アマゾンが84億5000万ドルで買収するMGMは、歴史ある映画、テレビ番組製作会社だ。しかし、最近はディズニーなどのライバルに水を空けられ苦戦してきた。

MGMはジェームズ・ボンドの「007」シリーズのほか、「ロッキー」シリーズなど古典的名作を手掛けてきた。だが、ボックスオフィスモジョによると、2018年と19年の興行収入トップ10にMGM作品は入っていない。

厳しい状況にあるのは、アマゾンの有料会員向け動画配信サービス「アマゾンプライム・ビデオ」も同じだ。ネットフリックスのほか、ウォルト・ディズニーの「ディズニー+(プラス)」、HBOマックス、アップルの「アップルTVプラス」などとの競争に直面。資金力豊富なこれらのライバルは、コロナ禍で広がったシリーズ物の「一気見」需要を獲得しようと、国際展開のための投資を強化している。

こうしたMGMとアマゾンプライム・ビデオの競争状況を見る限り、反トラスト当局は、今回の買収が価格上昇やイノベーションの阻害につながると裁判所を説得するのに苦心しそうだ。

クリーブランド・マーシャル法科大学院のクリス・セージャーズ教授は「現在の反トラスト当局の注意を引くほど市場シェアは大きくなさそうだ」と指摘。「(巨大企業の)アマゾンだからという理由で、懸念されることになるだろう」との見方を示した。

アマゾンは、本記事についてのコメントを控えた。ただ、同社は20年10月のブログで「大企業すなわち独占企業というわけではない。また、成功は反競争的行動の産物にほかならないという決めつけは、単純に間違いだ」と主張していた。

アマゾンは09年にオンライン靴小売りのザッポス、10年には乳幼児製品販売サイトのダイアパーズ・ドットコムと、競合他社を次々に買収して批判を浴びた。

エリザベス・ウォーレン上院議員(民主党)は大統領選に出馬した際、アマゾンによるザッポスや自然食品小売り大手、ホール・フーズの買収など「反競争的な合併」を解消するよう連邦当局に求めた。

市民団体のパブリック・シチズンで競争政策を担当するアレックス・ハーマン氏は「アマゾンは配信サービスのコンテンツを独占することを優先し、従業員や零細企業、規制当局の真剣な懸念に全く対処していない」と述べた。

反トラスト法の専門家は、当局がMGMの買収をどう扱うかについて、2017年のホール・フーズ買収を手掛かりに分析を進めてきた。アマゾンは当時、市場支配力を使ってさまざまな小売りセクターを支配していると強く批判されていたにもかかわらず、米反トラスト当局はホール・フーズの買収を速やかに承認した。

法律事務所ドイル・バーロー・マザードの反トラスト法専門家、アンドレ・バーロー氏は「政治的な理由により、当局は今回の買収の調査にホール・フーズよりも長い時間をかけるかもしれない。しかし、実際的な理由から結果は、同じになるかもしれない」と述べた。

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