連載 小売業とM&A 第4回:コンビニエンスストアにおけるM&A活用の方向性

前島有吾(PwCコンサルティング 執行役員)
坂田篤史(PwCコンサルティング シニアマネージャー)

日本のコンビニエンスストアは、1970年前後に誕生して以来、利便性の革新とフランチャイズ(FC)モデルの確立を背景に急成長を遂げてきた。2024年には、国内市場規模は約12.8兆円(経済産業省「商業動態統計調査」)、店舗数は約5.6万店(日本フランチャイズチェーン協会 CVS統計調査)に達し、過去最高を更新している。コンビニエンスストア市場は、小売業界において食品スーパーの15.6兆円(23年度経済産業省調査)に次ぐ規模を誇り、都市部から地方まで広く生活インフラとして機能している。一方で、人口減少や都市部での店舗飽和による成長鈍化に加え、食品スーパーやドラッグストアとの業態横断的な競争が激化するなか、コンビニエンスストアにはこれまでにない事業転換が求められている。本稿では、コンビニエンスストアの進化の軌跡を振り返りつつ、今後の市場変化にどう対応し、どのようにM&Aを戦略的に活用していくべきかを考察する。

セブンイレブン

国内コンビニエンスストア業界のこれまでの変遷

大衆消費社会の到来とコンビニエンスストアの誕生

 1970年代、高度経済成長による生活水準の向上と都市部への人口集中を背景に、大量消費社会が到来した。買物における利便性や効率性が重視されるようになり、そうした需要に応えるかたちで登場したのがコンビニエンスストアである。74年には、セブン-イレブンの日本1号店が東京・豊洲に開業した。

 コンビニエンスストアはその後、24時間営業やおにぎり・おでんといったヒット商品の開発により、小売業界に新たな常識をもたらした。さらに、FCモデルによる急速な多店舗展開を実現しつつ、ATMや宅配受付といった生活インフラ機能をも備えるなど、生活者にとっての“多機能拠点”としての役割を確立していく。この時期、食品スーパーがワンストップ型の総合性によって成長していたのに対し、コンビニエンスストアは「近くて便利」「24時間営業」といった日常密着型の価値を武器に、独自の存在感を強めていった。

ドミナント戦略の推進とM&Aによる規模の拡大

 コンビニエンスストアチェーンのKSF(キーサクセスファクター:重要成功要因)の1つがドミナント戦略である。特定の商圏内に高密度で店舗を配置することで、認知度向上や来店頻度の増加に加え、物流コストや人員配置の効率化を実現し、競争優位を確立していった。

 加えて2000年代以降は、スケールメリットの追求と経営資源の最適化を目的に、M&A戦略が本格化した。物流や商品開発、ITインフラなどの共通基盤を確保することで、経営効率を高めるねらいである。以下に示すように、地方中堅チェーンやFC加盟企業の吸収が進み、現在ではセブン-イレブン・ジャパン(東京都)、ファミリーマート(東京都)、ローソン(東京都)の3社で市場の約9割を占める寡占構造が形成されている。

<国内コンビニエンスストアのおもなM&A>
・07年:ローソンが九九プラスと資本業務提携(10年完全子会社化、14年ローソンストア100に吸収合併)
・09年:ファミリーマートがam/pmジャパンを買収
・16年:ファミリーマートとユニーグループ・ホールディングスが経営統合。サークルKサンクスを吸収し、ファミリーマートにブランド統一
・16年:ローソンがスリーエフ(神奈川県)と資本業務提携
・20年:ローソンがポプラ(広島県)と共同事業契約を締結し、一部店舗を吸収分割

コンビニエンスストアが着目すべき今後の市場変化

 本節では過去の変遷を踏まえつつ、今後のコンビニエンスストア業界の方向性を語るうえでとくに着目すべきトレンド5点について取り上げていく。

(1)都市部における飽和と市場の鈍化

 長年にわたる出店攻勢の結果、都市部では徒歩圏に複数のコンビニエンスストアが立地する過密状態が常態化している。日本フランチャイズチェーン協会の統計によれば、19年以降コンビニエンスストアの店舗数は横ばいから減少傾向にあり、24年も前年比で0.3%減と微減が続く。既存店売上は同+1.2%と堅調だが、物価上昇を加味すると実質成長は限定的である。今後のさらなる人口減少、とくに生産年齢人口の減少に伴う消費者数の低下により、市場の縮小が予想される。

(2)業態の垣根を越えた競争の加速

 国内市場の成熟化と消費者の購買行動の変化によりドラッグストアやディスカウントストア、ECなど異業種による食品・日用品分野への進出が加速している。とくにドラッグストアは、価格優位性と商品力を背景に食品構成比を28%(経済産業省調査)まで高めている。デリカ(弁当・総菜など)事業を含めた商品強化を各社目論んでいることから、さらなる競争の激化が予想される。

(3)時間価値への期待の高まり

 共働き世帯の増加、働き方改革、リモートワークの定着により、消費者の“時間価値”への意識が強まっている。CCCMKホールディングス(神奈川県)の「2024年時短・タイパ意識に関する調査」によると、消費者の買い物の時短意識は20年比で2.8ポイント増加している。(図表①)

図表① 消費者の時間価値の高まり

 また、矢野経済研究所「惣菜(中食)・米飯市場の実態と将来展望2024」によると、関連市場である中食・時短商品の19~24年の年平均成長率(CAGR)は+4.1%と増加傾向にある。従来から重要視されている価格価値に加え、時間価値も高まりを見せていることがわかる。

(4)パーソナライズニーズの台頭

 インターネットやスマートフォンなど情報端末の進化により、消費者は多くの選択肢から迅速に商品を選べるようになり、結果として自身にあった商品・サービスを求めるパーソナライズニーズが高まっている。

 実際、Medallia(メダリア)による「2023Medallia Market Research」では、消費者の82%が「自身の買い物の少なくとも半分の場面で、パーソナライズされた体験が最終的に購入するブランドに影響を与える」と答えている。デジタル技術のさらなる発展や商品・サービスの多様化が進むなかで、パーソナライズニーズは今後も高まっていくことが予想される

(5)高齢化に伴う医薬品市場の拡大

 総務省統計局「統計からみた我が国の高齢者」によると、日本の高齢者人口は23年時点で65歳以上が約3600万人、40年には約4000万人に達すると予測されている。高齢化は、慢性疾患や生活習慣病の増加を招き、医薬品の需要を押し上げる。日常的に服薬が必要な高齢者にとって、医薬品の入手のしやすさは生活の質に直結する。

 セルフメディケーションの推進や医療費抑制の観点からも、立地と営業時間の強みがあるコンビニエンスストアの医療インフラとしての役割が期待されており、25年に予定される医薬品医療機器法の改正がコンビニエンスストアにおける医薬品販売を後押しすることになるだろう。

1 2

関連記事ランキング

関連キーワードの記事を探す

© 2025 by Diamond Retail Media

興味のあるジャンルや業態を選択いただければ
DCSオンライントップページにおすすめの記事が表示されます。

ジャンル
業態