連載・小売業とM&A 第3回 食品スーパーにおけるM&A活用の方向性

前島有吾(PwCコンサルティング 執行役員)
田口裕基(Pwcコンサルティング シニアアソシエイト)(PwcPwcコンサルティング シニアアソシエイト)
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戦後、高度経済成長期以降の大量生産・大量消費の流れで急速に普及・拡大してきた食品スーパー業界の国内市場は15.6兆円(2023年度「商業動態統計」より)を誇り、小売業のなかでは百貨店(5.9兆円)やコンビニエンスストア(12.7兆円)を上回る。都市部から地方まで全国に点在しており、私たちの日常生活に欠かせない重要な生活インフラだ。一方で、市場の成熟化による成長の頭打ち、少子高齢化による需要減少、原価高騰によるコスト高等の新たな課題に直面しており、また消費者のライフスタイルの変化に伴う業態の垣根を超えた競争も激化している中、従来の枠組みに囚われない大胆な成長が求められている。本稿では、食品スーパー業界の変遷を振り返りつつ、新たな消費者ニーズへの対応を見据えたM&A戦略の方向性を探る。

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国内食品スーパー業界のこれまでの変遷

 まずは国内食品スーパー業界のこれまでの変遷を振り返っていく。

(1)大衆消費社会の到来と食品スーパーの誕生

 1960年代、都市の復興や高度経済成長期における大衆消費社会の到来とともに消費者の生活スタイルも変化し、効率性や利便性が重視されるようになった。そうしたなかで誕生したのが食品スーパーだ。セルフサービス式や広い売場・総合的な品揃え・低価格をウリにした展開からスタートし、この販売手法が消費者の支持を得て食品小売業から姿を変え、チェーンオペレーションを採用して規模を拡大したダイエーに代表されるような企業が流通革命を牽引し、急速な経済成長で中間層が増大するなか、大手食品スーパーは大規模化・総合化を志向し、総合スーパー(GMS)のような総合小売業態を強化して商圏を広域化させるとともに、画一的なフォーマットを確立して出店攻勢を強化していく。

 一方、中小食品スーパーは資本力や商品調達力の面で大手には敵わない中、個人商店時代から続く地域密着の運営で支持を集めつつ、大手に対抗するため中小食品スーパー同士でボランタリーチェーンを形成して競争力を維持してきた。いわばナショナライズ⇔ローカライズが同時に進んでいた時代であり、この構造が現在に至るまで多くの食品スーパーが全国に点在している所以である。

(2)M&Aによる規模拡大

 チェーンストア化を進める大手食品スーパーにとって、規模の拡大は競争力の源泉であった。多店舗化によってチェーン全体の売上を拡大させるとともに商品仕入の集中化を進め、規模の経済によって仕入コストの低減を図ることで価格競争力を高めた。実現に際してはさまざまな手法を駆使したわけだが、その主たるものがM&Aだ。

 自前出店に限らず、地方の中小食品スーパーを買収するロールアップ型M&Aによって規模の拡大を目指したのである。関西で創業したダイエー(東京都)の東京進出(64年)も中堅食品スーパー一徳(東京)の買収によって実現しており、その後ユニードや忠実屋等を買収することで業界の勢力図が一気に塗り替えられたことは自明である。

(3)社会構造の変化と消費者ニーズの変容

 経済の成長とともに発展してきた食品スーパーであったが、バブル経済の崩壊後の消費の低迷や女性の社会進出など、経済や社会の構造が変化するなかで消費者の食品スーパーに対するニーズも変容した。総合性・利便性から消費者の嗜好にあわせた独自性が重視されるようになり、ダイエーや西友(東京都)といった業界の牽引役だったプレイヤーが急速に競争力を失った一方、独自性を磨いてきた中小食品スーパーやディスカウントストアなどのプレイヤーが注目されるようになった。

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