大パラダイム変化のアパレル、今までとは次元の違う発想が必用な理由

河合 拓 (FPT Consulting Japan Managing Director)

私には一つわからないことがある。私はアパレル業界専門の経営改革支援を20年以上続け、その間、いくつかのファームを渡り歩いてきた。しかしどのファームでも、流通・小売産業については、オペレーション改善が重要視される一方で戦略は軽視され、「参考までに聞いておくか」と避けられ続けられてきた。代わりに、グレーヘア・コンサルと呼ばれる、「元ワールド」「元オンワード」、そして最近では「元ファーストリテイリング」出身の個人コンサルという方々が、自分の「過去の経験」を使って「昔はこうだった」といういいかたで、お茶を濁しており、アパレル産業はなぜかそれに従っていた。かくいう私も商社からコンサルに転職したとき、その癖が抜けず、とくにコンサルが使う横文字が理解できず苦労したものだった。後でわかったのは、実は、横文字をつかっている人ほど、自分も正確にわかっていないということであった。

この20年で60社以上のアパレル企業、外食企業、商社、製造業のコンサルティングをしていた経験から言わせていただくと、100社あれば課題も処方箋も100通りあり、必ずしも「昔の経験」では通用しない。また、どう考えて見ても、長期ヴィジョンが曖昧で具体性に乏しく、戦略軽視・オペレーション重視のパッチワークが散見されている。

しかし、どうやらもはや限界に来ているようだ。私はこの1カ月で、徹底的に色々な公開情報を読み、有識者達や現場の方と議論を重ね、一つの結論に達した。それは、世界と日本は大きく変わっており、その変化のレベルは昔のやり方で課題解決は成し遂げられないところまで来ているということだ。今回から何回かにわけて、それを書いていきたいと思う。

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もはや市場たりえない日本

 この文章を書いている7月21 日は参議院選挙が行われた日で、与党の大敗がほぼ確定した日だった。国民の怒りも限界に達したようで、「日本ファースト」を掲げる参政党と「手取りを増やす夏」を訴えた国民民主党が大躍進。とくに、若い層の支持を SNSなどを使い、大きく表を伸ばしたようだ。これは、以前から予測が付いていたことで、米国はじめ先進諸国の成長が鈍化する中、先進国の右翼化傾向が世界的潮流になっていたからだ。

 失われた30年と言われるが、この30年、日本は一体何をしていたのだろう。現在のGDPランキングで言えば、日本はドイツに抜かれ4位にまで転落したが、1人当たりにすると、正確な数値は幾多あれど、20位後半から30位でとうとう韓国にも抜かれている。これをわかりやすく言えば、日本のGDPは人口によって成り立っていたと言える。先進国の中では実は人が多いだけで、それほど人員生産性は高くないのだ、

 日本の出生数も2024年で68万6061人となり、人口維持のために必要な80万人を大きく割り、論理的に言えば、このままでいけばいつか日本人という民族は消滅するわけだが、日本は世界一の長寿国で高齢者が増え、人口の平均中央値はなんと50歳だ。つまり、あと10年もすれば、ほとんどの人が定年となり、恐ろしい数の老人の面倒を若者が見る超重税国家となるわけである。

 こんな競争環境で、メディアは最近の衣料品市場は右肩上がりだと騒いでいるが、1990年に15兆円あった市場規模は、とうとう8兆円になり、残品率は約30% (諸説あるが)。市場はマクロ的にみれば、緩やかに減少しており、決して楽観視できる数字ではない。人口は都内に集中しているが、この過度な円安で高額マンションの多くは外国人に買われ、私達日本人は彼らに賃料を払って住居を確保している。その結果、都内のマンションの平均価格は1億円を超え、年金はすでに破綻しているのは誰でも知っている。今回の選挙結果は、とうとう頭にきた若者が積極的に動き出して老人政治にストップをかけようとしているわけだ。

 このように、どこから見ても日本に未来はない。政治家はどの政党も「借金を増やして分配」する政策しか掲げず、アパレル産業は「需要予測」だとAIに期待しているが、問題は「予測」ではなく、小さくなりつつあるパイを、多数の企業で奪い合っている構造となる。そして、その参入障壁の低さから、次々と若いアパレルがあぶくのように出ては消え、消えては現れる(違う意味でのバブル・エコノミー)の再来なのである。

 こういう時代、グレイヘアの勝ち組企業の成功パターンに解を求めるのは、株で大儲けした人(そして、その裏には数千人の負け組が存在する)の偶然勝ちを聞くようなものなのだ。私達は、コンサルになりたての時、「科学とは再現性と反証性」、つまり、ほかの企業に当てはめても通用する汎用的な枠組み、方法論の提示と、因果関係の明確化、つまり、失敗しても成功しても、なぜ、失敗・成功するのが分かる論理力を鍛えよと教えられた。

 さらに、この熱帯夜のような猛暑は留まるところを知らず、今年の猛暑はすでに死者さえだしており、あきらかに環境破壊は不可逆的に増えている。何年後か先、人類は外に出歩けない時代が来るだろう。そうした理由からか、仮に100歩譲って近視眼的なものの見方をしても、この猛暑の中を長袖のブラウスをきて、さらに長袖のジャケットを着、そして、クビを占めるネクタイをするビジネススタイルは軽い産業からどんどんカジュアル化が進み、オフィスでもTシャツスタイルで、仕事をする人を散見するようになってきた。

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記事執筆者

河合 拓 / FPT Consulting Japan Managing Director

Arthur D Little Japan, Kurt Salmon US inc, Accenture stratgy, 日本IBMのパートナー等、世界企業のマネジメントを歴任。大手通販 (株)スクロール(東証一部上場)の社外取締役 (2016年5月まで)。The longreachgroup(投資ファンド)のマネジメントアドバイザを経て、最近はDX戦略などアパレル産業以外に業務を拡大


著作:アパレル三部作「ブランドで競争する技術」「生き残るアパレル死ぬアパレル」「知らなきゃいけないアパレルの話」。メディア出演:「クローズアップ現代」「ABEMA TV」「海外向け衛星放送Bizbuzz Japan」「テレビ広島」「NHKニュース」。経済産業省有識者会議に出席し産業政策を提言。デジタルSPA、Tokyo city showroom 戦略など斬新な戦略コンセプトを産業界へ提言

お問い合わせは以下のメールアドレスより

 

 

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