AI投資は「6勝4敗でいい」=ブラックロックJ 入山氏
[東京 22日 ロイター] – ブラックロック・ジャパンの株式戦略部長、入山千恵子氏は、ビッグデータやAI(人工知能)を使った資産運用について「6勝4敗でいい」と話す。未来を完全に予想できるわけではなく、短期的には金融市場特有の変動に翻弄されることもあるが、収益拡大が期待できる企業をいち早く探し出し、長い目でみたリターンを生み出すことが重要だと述べる。また、運用には人の関与が欠かせず、機械だけにはならないとの見方を示した。
20日に実施したロイターとのインタビューで語った。
世界最大の運用会社、米ブラックロックの昨年12月末時点の運用資産は5.97兆ドル(約655兆円)。このうちビッグデータやAIなどを使った運用を行う科学的アクティブ株式運用部門(SAE)は900億ドル。
主なやり取りは以下の通り。
──ビッグデータやAIなどを使った投資手法を何種類くらい利用しているか。
「各国別のバージョンの違いなど細かいものまで1つと考えると数百。似たようなカテゴリーをまとめると100ぐらいになる」
──メインとなっている投資手法はあるか。
「多くの手法を用いて投資しているので特別な1つの手法というのはないが、新しいものでいえば、米国の事例でスマートフォンのビーコンデータがある。スマホの位置情報をオンにしておくと、どの場所に、どのくらいの人が集まっているかということがわかる。かなり正確にリアルタイムの売り上げが予想できるので、小売りセクターの投資に利用している」
──人が集まっても、金を使うとは限らない。
「デパートなどと異なりレストランのような場所では、メニューや単価がだいたい決まっていて、来店した客数で売り上げがほぼ予想できる。入店すれば(ウィンドー・ショッピングだけという人は少なく)ほとんどの客が注文するからだ」
──どこからデータを買うのか。スマホのキャリア会社などはデータを手放さないのではないか。
「キャリア会社などからデータを買うわけではない。米国の事例の場合、スマホのアプリに連動しているデータがある。すべてを網羅しているものではないが、アプリにつながっている一部のデータを、情報ベンダーがアプリの顧客の同意を得たうえで、そのベンダーから購入する」
──個人情報もわかるのか。
「厳格に義務付けているのは、たとえ個人の同意を得た情報であっても、個人情報を特定できないようにした状態でデータを提供してもらうことだ。サンプルデータを検証する段階から、コンプライアンス上、問題にならないようなデータを提供してもらう契約を結んでいる」
──データは正確なのか。将来を予測することができるのか。
「ホテルチェーンの宿泊予約データは、有力な情報だ。宿泊予約する人は、だいたい1カ月前には予約することが多い。ホテルの売り上げをいち早く予想することができるだけでなく、周辺の企業やレストランの情報としても使える」
「お金を使うかどうかはわからないので正確性は劣る。ただ、かなりの確率で、お金を使うだろうということは予想できる」
──ミクロ以外のマクロのデータは。
「物流では、船舶や車両の移動データを衛星画像から入手する。どんなものを運んでいるかまではわからないが、物流が以前より頻繁に行われているかどうかといったことはわかる。個別企業までは特定できないものの、国のマクロの経済活動が、上向きか下向きかを判断する材料として使える」
「新興国では建物の鉄骨量を衛星画像で測定している。これにより国全体の建築スピードがわかるため、経済活動を測るうえでの重要なデータとなる」
──データ購入費用は。
「具体的には開示できないが、画像データは高額だ。ただ、当社はデータ分析を30年以上、ビッグデータなどの分析を10年以上やっておりノウハウがある。データのプロがいるので、情報ベンダーに対し、こういうデータなら使えるとか、こういう処理をすれば使えるようになるといったアドバイスができる」
「開発助言を提供することで購入コストを交渉したり、粗いままの、いわゆる『きたないデータ』をそのままもらうといったメリットを受けることができる」
──「きたないデータ」とは。
「いろいろなデータがごちゃまぜに入っている状態では使いにくいので、通常は使いやすいように加工して、きれいなデータにすることが多い。しかし、きれいなデータにすると情報量が減ってしまう」
「あくまでイメージだが、POSデータにおいて、商品の企業名、ブランド名、サイズなど様々なデータが含まれているのが『きたないデータ』だ。それをカテゴリー化して、1つのブランドのデータにまとめたのが『きれいなデータ』になる」
「情報ベンダーは同じ情報を競合他社に売ることも想定されるが、当社はデータ処理のノウハウがあるので、『きたないデータ』から他社とは異なる有効な情報を見つけることができる」
──ビッグデータといっても過去のデータだ。未来を予想することができるのか。
「今はほとんどの企業がカンファレンスコール(決算報告の電話会議)を行う。その中から、どこの企業が将来のプランやビジョンを話しているかを探し出し、それがポジティブなのか、ネガティブなのかを判断し、将来の予想データとして使えるようになってきた」
「アナリストも将来を予想する。コンセンサスとして、どうみられているかも有用な情報だ」
──しかし、アナリストの予想も外れることがある。企業のビジョンも経営者の大言壮語の可能性だってある。データには「ノイズ」も多いのではないか。
「そういったものが含まれているのも事実だ。スケールメリットが重要で、5社しかカバーしていないとしたら、大きなロスが出るかもしれないが、1万社あれば5社がそういうことになっても、大きな損は出ない」
「6勝4敗でいい。(ベンチマークに対し)常に少し高い『打率』で運用することが重要で、それを続けていくことにより着実にリターンを積み上げていきたいと考えている。9勝1敗である必要はない」
──パフォーマンスは。
「直近5年でみれば、ほぼ9割のファンドがベンチマークを上回っている。ただ、直近1年だけでみれば、昨年10─12月期の世界的な株価下落によって苦戦しており、9割を下回っている。ただ、競合他社よりは高いパフォーマンスを上げている」
──先んじることで、どんなときも負けないようにもみえるが。
「株式市場には波があり、株価は一時的にファンダメンタルズとは違う方向に動くときがある。長期的にみれば、収益が拡大する企業の株価は上がるというのが、当社の投資の基本的な考えだが、業績がいい会社でも一時的に株価が下がることはある。昨年の第3・四半期はそういう相場だった。ただ、今年1月以降は、ファンダメンタルズからかい離した株価の歪みも修正されてきている。数年単位でみることが重要だ」
「当社の科学的アクティブ株式運用部門の運用資産残高は、昨年12月末で900億ドルと昨年3月時点の1100億ドルと比べ減っているが、昨年10─12月期の株価下落で目減りした分であり、資金フローとしてはインフロー(純流入)になっている」
──将来、資産運用から人はいなくなるのか。
「それはない。どのようなデータが必要かを考えるのは人だ。モデルを作るのも人だ。当社の投資哲学の1つである合理性とは、どんなに良さそうなデータがあっても、なぜそうなるのかという理由がわからないと使わないというものだ。その合理性は、マーケットを長く見ている人でないと判断が難しい。すべてを機械に委ねるようなことにはならないだろう」
(インタビュアー:伊賀大記 編集:田巻一彦)