生協がすすめるDX
コープ東北サンネット事業連合
常務理事システム部・物流本部 管掌
河野 敏彦 氏
スタートアップと連携しアジャイル開発に取り組む
日本生活協同組合連合会(以下、日本生協連)は、2020年4月より「DX-CO・OPプロジェクト」をスタートさせた。その推進のために、「デジタル共同化協議会」を、コープ東北サンネット事業連合、コープデリ連合会、東海コープ事業連合と日本生協連で発足させた。この4者が共同でスタートアップ企業と連携をとり、3つの連合会が先行して実験に取り組み、成果が確認できた施策から順次、日本生協連を通じて全国の生協への導入を進めている。新型コロナウイルス感染拡大を機に、若年層に生協利用が広がっているが、DX化によりこれをより一層促進させたい。
献立を考える・選ぶ手間を排除
DXを推進するべく、日本生協連は3つのコンセプトを掲げている。一つ目は「家族との豊かな関係構築を支援するパートナー」とし、21年4月にサービスを開始したのは、レシピから商品を注文するウェブサイト「コープシェフ」。組合員が、ウェブに掲載される好みのレシピをタップすると、必要な食材が自動的にカートに入る仕組みだ。レシピのデータベースにある食材情報と商品マスターをひもづけることで実現。なお、商品マスターは毎週更新され、ひもづけは自動的に行われる。
コープシェフを開発するヒントになったのは、組合員の声だった。「献立を何にするか決めることに労力と時間を要する」といったお悩みや、「新型コロナをきっかけに家族揃って食事をする機会が増え、献立のレパートリーを増やしたい」などの要望もあった。
コープシェフで期待できる効果は3点。客単価の引き上げ、子育て世代の利用活性化、ユーザー接点の増加だ。スマホでなんでも済ませてしまうデジタル中心の生活者が、コープシェフを活用することで、献立を考えるところから食材購入、調理、食事など一連の流れの中での不便さを解消。新しいくらしを実現させたい。
なお、アジャイル手法で開発したコープシェフは、定量・定性的なデータをもとに機能を追加していく。例えば、「コープ商品を利用したレシピを先行的に表示する」など。改善点は次々と反映し、コープシェフをアップデートしていく。
世代を超えて地域でつながる。橋渡し役は生協
二つ目のコンセプトは「流動的な地域共同体のプロデューサー」。社会人なりたてで一人暮らしの20代組合員に料理教室イベントをご紹介するなど、店舗を拠点とし、趣味や関心でつながる地域の活発なコミュニケーションを後押しする。
毎回同じ時間に固定のメンバーで集まるのではなく、SNSを活用して好きな時間に興味のあるトピックを選んで集まれるような流動的なつながりを地域で持てるよう支援する。さらに、組合員同士のつながりから、助けがほしい時に手を借りたり、自分の空いた時間に自分の能力を活かして手助けをする仕組みを整えたい。
配達ルートを最適化し組合員との対話時間を創出
3つ目のコンセプトは「安心して生協のサービスを利用いただくためのサポーター」。生協の主力事業である宅配事業において、配達員の負荷軽減を図ることも極めて重要だ。配送コースを最適化するシステムを実現し配達員の負担を減らすことで組合員との対話時間を創出する。
配送コースは、AIを活用した経路効率化のソリューションによる実証実験を「コープあいちの三好センター」で実施。結果、配送エリアの既存コースと新コースを比較すると、1コースあたり3台減、総稼働時間は22時間34分減、総走行距離は54キロ減という成果が確認できた。このシミュレーションコースで試運転を行い、適合性を検討しながら実践に移していく予定だ。
「チラシが多くて見切れない」の声から東北で配布実験を実施
組合員と職員側の双方から問題視されていたのが紙のカタログやチラシだ。組合員からは「チラシが多くて見切れない」などの声があがっており、コープ東北で配布実験を実施。これまで組合員の購入頻度を問わずカタログを配布していたが、今後は、購入有望性を分析評価し、見込みのない組合員には配布しないことでコスト削減を目指す。
なお、DXを推進する上で注力すべきは、デジタルに馴染みのないシニア層を切り捨てないよう配慮することだ。例えば、根強く支持されているOCR用紙注文は、利便性が高く運用コストも低い。全世代の組合員に配慮するという点で、当面、OCRは手放せないだろう。
「小さくはじめて、速く失敗して学べ」
「DX-CO・OPプロジェクト」を導入してから、2年が経過する。改めて、実感するのは、人や組織の改革なしにDXを推し進めることは容易ではないこと。DXへの理解やスピード感には地域差があるため、定期的に勉強会を行うほか、各地域が抱えている問題意識にも丁寧に応じながら、全国の生協が力を合わせて新時代を迎えたい。
「Start small, Fail early, Learn fast!」小さくはじめて、速く失敗して学べ。それがイノベーションの道であると心得、今後も継続的にプロジェクトを改善していく。
(おわり)
各プログラムの詳細
下記画像リンクから、各プログラムの詳細をご覧いただけます。