第2回『小売業 キーパーソンに聞く!』
講演①&インタビュー 「インダストリアゼーションとデジタル化の先に」

2022/03/15 10:08
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    インダストリアゼーションとデジタル化の先に
    株式会社ベイシア 代表取締役社長 橋本浩英氏

    株式会社ベイシア
    代表取締役社長
    橋本浩英 氏

     

    創業以来取り組む「商業の工業化」とは

    ベイシアの前身である「いせや」は、創業以来、「商業の工業化」に取り組んできた。生産性が低いとされる商業に、生産性が高いとされる工業の発想・仕組みを取り組んでいくものだ。弊社では、この商業の工業化があってこそ、DXのメリットを最大限に発揮できるものと考える。

    前提として、ベイシアは2000年から新業態の「スーパーセンター」を展開してきた。スーパーセンターの標準的な売場面積は3000〜4000坪と広く、ワンフロアで「衣・食・住」すべてが揃う品揃えの良さがお客様に支持され、業績を押し上げた背景がある。

    一方で売場面積が広いと、その分、従業員の作業量が増え、複雑化する点が課題だった。店舗における総人時の割合は、レジ20%、生鮮40%、品出し10%で、いかにして業務削減・効率化し、ひいてはお客様に満足していただける価格帯で提供できるかが、目下の課題だ。現在、本部所属従業員のうち3割が商業の工業化に携わり、全社をあげて業務効率・改善に取り組んでいる。

    「縮小化」という進化

    スーパーセンターの業態で業績を伸ばしてきたベイシアだったが、ドラッグストアの市場拡大、人口減少などの環境変化を受け、2018年4月に開店したのが、売場面積を約1400坪まで縮小した「コンパクトスーパーセンター」勝浦店(千葉県勝浦市)。食品売場と衣料住関連売場の面積比率をほぼ1対1にし、購買頻度の高い商品を厳選することでお客様の回遊性を高めた。イートインスペースの「HanaCafe(ハナカフェ)」を導入し、また、生鮮・惣菜の部門を連携させたデリカテッセンを強化した。

    スーパーマーケット写真

    加えて、若年層を意識しつつ、2020年3月に新たなストアコンセプトとして打ち出したのが、前橋吉岡店(群馬県北群馬郡吉岡町)を改装した「MARsia=マルシア」1号店。マルシアとはMARcheとBeisiaを組み合わせた造語で、市場のような鮮度、品揃えの豊かさ、活気に満ちた演出などが特徴だ。フレンチや、昨今のトレンドである韓国料理など、海外グルメも積極的に取り揃えることでオリジナリティを強化。若年層にも愛される店づくりを目指している。

    「3つの柱」でDX戦略を推し進める

    スーパーの店舗業務は、複雑で不確実なことが多い。属人的であり、人の経験値や頭数で作業を行う慣習が長く続いてきた。その点、メーカーは、いかに業務を効率化・標準化することに注力している。メーカーの生産管理の手法を取り込むことで、商業の工業化につながるのではないか。そう考え取り組んでいるのがDXだ。「売り場の見える化」、「お客様の見える化」「働き方の見える化」の3本柱を掲げている。

    ・「売り場の見える化」

    従来は、発注業務・在庫管理を店舗スタッフの勘や経験値に頼って行なってきたが、属人化により店舗格差が生まれる可能性もあった。ベイシアでは2018年より発注と在庫をコントロールする専門家「インベントリーコントローラー」を本部に12名在籍させ、全発注業務の95%を担っている。インベントリーコントローラー導入から4年が経つ現在、データは蓄積され発注の精度は高まっている。

    ・「お客様の見える化」

    2020年12月、「ベイシアアプリ」がスタートし、一年足らずで約100万人近い登録者数を達成(2021年12月現在)。アプリは“お客様との接点”であり、双方向のコミュニケーションが可能になる。お客様の購入履歴などから、好みやニーズを見える化し、キャンペーン企画・提案。アプリ利用を継続していただくよう努めている。高齢のお客様をはじめ、アプリではなく会員カードを好む方も一定数いらっしゃる。アプリにするとどんなメリットがあるのかを現場で解説しアプリへ移行してもらうための草の根運動が大切。 なお、ベイシアアプリを開発するにあたりDXの専門家を外部から雇用し新たな知見を得ている。ただし、デジタル部門の人材であろうとも「まずは現場から」の精神で、どなたにも2週間の現場研修を必須としている。

    ・「働き方の見える化」

    店舗業務において、従業員の経験値や勘に頼るところが少なくなかった。理想は「個人技から組織技」にすることであり、かねてから紙のマニュアルが存在していたが、紙ベースだと従業員一人ひとりがどこまで内容を理解しているか不透明で、本人は“わかったつもり”でも実装できないケースもあった。 そこで導入したのが、3000ものバリエーションがある動画マニュアル。アルバイト・パートを含む全従業員が動画マニュアルを見て「知る」、「わかる」、「できる」の工程を踏み、SV(スーパーバイザー)が従業員の理解度チェックを行うことで業務の底上げを図っている。

    店舗における総人時の割合は、レジ20%、生鮮40%、品出し10%だが、品出し中に棚を探し歩いている時間は品出し業務の30%にも及ぶ。業務効率のため、棚ごとに何番何号という住所を設け、商品の段ボールに住所入りのラベルを貼ることにより、午後までかかっていた品出しが開店前に完了するようになった。

    DXを推進し業務が効率化されることで、店舗の従業員がおもてなしについて考える時間が増え、生産性の向上につながっている。なおSVは、現場の声や要望・課題を本部に共有するパイプ役も担っている。

    楽天と連携。新たなビジネスモデルを模索したい

    2022年1月、楽天グループが提供するネットスーパーのプラットフォーム「楽天全国スーパー」内に、「ベイシアネットスーパー」をオープンした。「ベイシアネットスーパー」は、WEB上で注文された商品をベイシアの店舗からピックアップしてお客様宅へ配送。最短で注文当日の配送が可能で、最長で3日前から注文を受け付けている。

    また、楽天会員とベイシアアプリ会員を紐づけることで、ベイシアアプリ会員の新規獲得を期待するとともに、アプリ既存会員様の離脱を防ぎたい。まずは群馬県内の店舗からスタートし、3年を目処に楽天全国スーパーの取り組みをできるだけ多くの店舗に導入していく構えだ(22年2月22日時点で、群馬県以外に埼玉県と千葉県にもエリアを広げて計5店で実施中)。

    デジタル化の先にあるもの

    それは、顧客にとって快適な買い物時間を提供し顧客の新たな価値を創造することだ。その手がかりとなるのが、ベイシアアプリ。さまざまなデータが蓄積されているため、分析のスペシャリストの腕の見せ所。例えば、そのお客様が言う「品揃えの良さ」とは、「品数数が多い」ことなのか「新製品・トレンドを取り揃えている」ことなのか。これを的確に分析・判断することで、新たな商品構成に結びつけていく。

    現在ベイシアは約140店舗あるが、全てを標準化する必要はない。アプリの「MY店舗登録」をしてくれたお客様のニーズに合わせ、「地元のお店」として生涯愛されるよう、店舗の在り方を考えていきたい。

    ※このレポートは講演とインタビュー内容をダイヤモンド・リテイルメディア流通マーケティング局がまとめたものです

    各プログラムの詳細

    下記画像リンクから、各プログラムの詳細をご覧いただけます。

    ネットスーパー最新情勢とネット主流時代のメーカー戦略 新時代のマニュアルで本部・店舗間のコミュニケーションを変える
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