コカ・コーラとマリオットが挑む マーケティング×AI

酒井真弓

3月18~20日までラスベガスで開催されたAdobe Summit 2025。デジタルマーケティングにAIを活用する事例が多数公開された。コカ・コーラのジェームス・クインシーCEOは、クリエーティブが氾濫する時代だからこそ、自分たちの存在価値は何か、顧客に届けたいメッセージは何か、基本に立ち返ることの重要性を示唆した。

マーケターのジレンマ解消

 Adobe Summit 2025が、3月18~20日までラスベガスで開催された。キーメッセージは、AIとクリエーティビティの融合による「Customer Experience Orchestration(顧客体験のオーケストレーション)」。つまり、さまざまなチャネルやタッチポイントを横断し、顧客一人ひとりに最適な体験を提供するアプローチだ。

 これを実現するために新たに発表された「AdobeExperience Platform Agent Orchestrator」は、マーケティング業務をサポートするAIエージェントだ。データ分析、コンテンツ制作、ターゲット設定など、多岐にわたる業務ごとに特化したAIエージェントが連携し、人間のマーケターの創造性を最大限に引き出すという。

 今日のデジタルマーケティングは、今この瞬間にも的外れな広告や大量のメールマガジンで顧客をうんざりさせ、結局は広告費を無駄にしてしまう悪循環が多く見られる。Adobeは、「AIの活用によりこのジレンマを解消し、マーケターがより創造的な業務や戦略立案に集中できるようにしたい」と強調した。

AI時代も創造性こそ勝者

Adobeのシャンタヌ・ナラヤン会長兼CEO(左)と、コカ・コーラのジェームス・クインシーCEO(右)
Adobeのシャンタヌ・ナラヤン会長兼CEO(左)と、コカ・コーラのジェームス・クインシーCEO(右)

 1日目の基調講演の中盤で会場を沸かせたのは、Adobe会長兼CEOシャンタヌ・ナラヤン氏と、コカ・コーラ・カンパニーの会長兼CEOジェームス・クインシー氏の対談だ。クインシー氏は、ジーンズにポロシャツというカジュアルないでたちで登場し、プシュッとコカ・コーラを開けると、ナラヤン氏も手酌で応えた。

 「ゾンビ・キラー」の異名をとるクインシー氏は、5年で400あったブランドを200に削減。〝やめどき〞を見極めた選択と集中で、いまや200ブランドのうち30が年間10億ドル以上のビジネスに成長している。

 コカ・コーラは、2011年ごろから、ボトルに個人名を印刷したボトルを展開する「Share a Coke」キャンペーンをはじめ、顧客一人ひとりに合わせたパーソナライズを重視してきた。AIの登場で、それが一気にやりやすくなったという。

 「大企業は動きが遅くなりがちだが、私たちはどう使うべきかわからないうちから生成AIの列車に飛び乗った」とクインシー氏。24年のクリスマスシーズンには、ホッキョクグマとトラックが登場する動画広告をAIで作成した。従来よりはるかに短い期間で安く制作でき、生産性が大幅に向上したという。

 しかし、人間の顔をリアルに生成するまでには至っておらず、今後は「広告に人間を登場させたい」という。クインシー氏は、「どれくらいの時間とコストがかかるかは未知数だが、人が見ても納得するくらいの人間をAIで制作できるようになれば、マーケティングに大きな革命が起きる」と考えているようだ。

 近い将来のマーケティングについて、クインシー氏は企業と消費者の間のジレンマを指摘した。マーケティングを展開する企業側は、生成AIや自動化を駆使して安価にクリエーティブを変更し、消費者がクリックするまで、いうなれば地の果てまで追いかける。

 かたや追跡に嫌気がさした消費者は、あらゆる広告をブロックするアプリを入れるようになる。クインシー氏自身、「くだらないものにスパムされたくない派」で、広告をブロックするアプリを重宝しているようだ。

 「消費者は質の高いコンテンツは受け入れるが、ゴミは拒絶する」とクインシー氏。AIの登場によりコンテンツが氾濫する未来も予測されるなか、クインシー氏は「創造性の質」が決定的な差別化要因になるとみている。

 では、コカ・コーラは今後、何にマーケティング予算を使うべきだと考えているのか。「ライブ体験だ。音楽業界の動向を見れば明らかで、いまや多くの収益がライブ体験から生まれている」。コカ・コーラにとってのライブ体験とは何か、この日クインシー氏から具体的な言及はなかった。

 ホームセンターにとってこのライブ体験とは何だろう。店舗での体験か、はたまた新たなアイデアと場が必要なのか、世界トップの経営者の思考に触れて、つい考えずにはいられない。

1 2

関連記事ランキング

関連キーワードの記事を探す

© 2025 by Diamond Retail Media

興味のあるジャンルや業態を選択いただければ
DCSオンライントップページにおすすめの記事が表示されます。

ジャンル
業態