“デジタル化”では差はつかず…DX時代に“選ばれる薬局”の条件とは

編集プロダクション雨輝
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「テックタッチをどこまで受け入れるか」

 このような『Pocket Musubi』を使った接点創出は、中尾氏の言う「テックタッチ」の一例だ。「テックタッチ、ロータッチ、ハイタッチ」とは、SaaS企業などがカスタマーサクセスの手法として取り入れてきた概念。「ハイタッチ」はマンツーマンの手厚いアプローチ、「ロータッチ」は1対複数のアプローチ、「テックタッチ」は主にデジタルを使って多数の人にアプローチすることを意味する。

 これを薬局と患者の接点に当てはめると、ハイタッチは薬局窓口での服薬指導や在宅訪問、テックタッチは複数の患者にメッセージを自動送信して状況確認するような場面を想定できる。

 「1000人の患者を抱える薬局を例にすると、50人の外来患者に対応しながら残りの950人に電話をかけるといったことは現実的には不可能だ。テックタッチで最低限のアセスメント(患者の様子を確認すること)を行い、問題のありそうな患者については薬歴を確認した上で薬剤師が介入するべきだろう(中尾氏)

 テックタッチによる生産性向上もさることながら、アセスメントの総数が増えることで薬学的な考察も深まり、薬剤師のパフォーマンスが顕在化しやすい。中尾氏は、薬局業界の展望を見渡すうえで「テックタッチをどこまで受け入れるか」が分水嶺になると話す。

kumikomini/iStock

 「患者に与えた影響が大きい分だけ薬局への評価は高まり、それが付加価値となる。受診のタイミングを伝えて積極的に患者を動かせる薬局は強い。さらに日常生活での意識と行動を変える力のある薬局は最強だ」(中尾氏)

 調剤薬局で患者ごとに蓄積された調剤データとPOSデータを連携させて、慢性疾患の軽減や生活習慣病の改善に向けた助言をするなど、調剤と物販の連携で付加価値を出せる余地もある。その一例が、カケハシとイオンリテール、大塚製薬の3社が、経済産業省 令和5年度「ヘルスケア産業基盤高度化推進事業(PHR利活用推進等に向けたモデル実証事業)」の一環で実施した実証事業だ。

 この実証事業では、東京18店舗のイオン薬局で「Pocket Musubi」と大塚製薬のサービス「エイチル」に登録した198人を対象に、薬剤師による指導とオンラインコンテンツの配信をしたところ、健康に関する相談件数の増加や特定の健康食品の売上増(前年対比約+17%)といった行動変容を確認した。

 薬局DXは患者の意識改革と行動変容を促すうえで不可避だ。「全店舗のシステム切り替え、データ収集から始まり、ユーザー体験につながる接点を強化し、疾患や地域性を踏まえて最適解を模索することになるため、時間はかかる。しかし、付加価値を高めるためのDXをするかしないかで、3年のうちに大きな差が生まれるだろう。当社も企業の声にお応えできるよう、責任と自覚を持ってチャレンジを続けたい」(中尾氏)。

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