第1回 アメリカのベーカリーカフェチェーン「パネラブレッド」の生き残りをかけた泥臭いDX戦略

顧客時間 共同CEO:奥谷 孝司
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備えあれば患いなし
デジタルで店舗を守ることはできる

 ここまでパネラブレッドのDX推進について解説してきた。このなりふり構わぬ売上につながるデジタル推進、お客様と繋がり続けるために不可欠なデジタルタッチポイントの構築、真の顧客体験、CX(Customer Experience)の実現に向けた挑戦をみなさんはどう考えるだろうか。

 コロナ禍において、デジタルへと先にシフトしたのは企業ではなく、お客さまである。この流れに必死に対応しようとするパネラブレッドから私は日本でよく言われている「小売業は変化対応企業」という言葉を思い出した。

 パネラブレッドは飲食店であり、厳密には小売業ではない。そして、これらの施策もどの程度売上、利益に寄与しているのか筆者は定かではない。しかし、彼らのDX施策に共通しているのは、店舗という資産の最大活用を意図した取り組みであるということだ。そして、その準備を粛々と進めてきたからこそ、このような施策を矢継ぎ早に展開し、お客さまにシームレスな買物体験を提供することができた。

 しかし先述したコーヒーの定額飲み放題もこの業界では必ずしも新しい取り組みではない。USではKFCが以前からチキンの食べ放題の定額サービスを展開している。さらに米国における生鮮食品のネットスーパーへの取り組みは多くの小売業が実施していることだ。

 ただ、彼らの取り組みから、私はデジタルエクセレンスだけでなく、目の前にいるお客様の窮状をみながら、必死に貢献しようという商売人の真摯さが感じられるのだ。そして、この厳しい環境下で必死に「生き残ろう」とする強い意思が現れているように思う。

 パネラブレッドのCEO、Niren Chaudharyは、パンデミックが始まった時期にいみじくもこのように語っている。「人生とはまさに逆境に立ち向かう粘り強さ、回復力(Resilience)によるものであると信じている。逆境に立ち向かうために、とにかく、前に進みつづけよう」。

 まさに体験が、人を強くするのである。ワクチン接種が進む米国において人流は戻ってきているようだが、テレワークが当たり前になったビジネスパーソンは以前のように外食はしないだろう。

 デジタルはわれわれが大切にしている店舗を守ることができる武器なのだということを、パネラブレッドは教えてくれている。コロナが明けたら、アメリカでパネラブレッドに行ってみようと思う。日本の小売業が真の変化対応業であるためのヒントが詰まっていることだろう。

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