マイクロソフトがパートナー イオンが進めるSM事業のデジタル変革最前線
デジタル化を戦略の柱の1つに掲げるイオン(千葉県/吉田昭夫社長)。中核のスーパーマーケット(SM)事業では、全国の子会社SMをエリアごとに再編して、成長機会の拡大をめざすと同時に、日本マイクロソフトとパートナーシップを組み、デジタル変革を急いでいる。その概要をまとめた。
イオンがデジタル変革をめざす本当の理由
少子高齢化と人口減少に加え、他業態が食品強化を進めるといった環境変化により、SMのビジネスモデルは大きく変わらざるを得ない局面にある。
「デモグラフィックの変化をベースにするとこれからの成長モデルを描きにくい。成長するには、個々のお客さまにもっと歩みよりながら、何を求めているかを知らなければならない。そのためにデジタル変革が必要であり、それを通じてわれわれが変わりきれるかが求められている」デジタル変革を進める理由を、イオンSM・商品物流担当の藤田元宏副社長はこのように語る。
機械化や省人化がデジタル変革のテーマとして挙げられることが多い中、「お客さまにどう寄り添うか」をそのメーンテーマと位置付けている点が、同氏が社長を兼務するユナイテッド・スーパーマーケット・ホールディングス(東京都:以下、U.S.M.H)の特徴だ。
その理由は、SMがメーンターゲットとしてきた“大衆”がいなくなったためだ。そして、これを単に価値観の多様化と片づけるのではなく、顧客がやりたくてもできなかったことが、テクノロジーの進展によってできるようになった結果、顧客の行動がシフトしたのだと藤田副社長は理解している。従来は行きたくなくてもその日の食事のため、買い物に行かなければならなかった。それが今では、たとえば前日に注文すれば必要なものを当日に受け取れるなど、顧客の行動を縛る制約条件がテクノロジーにより次々と緩和されている。「その結果、お客さまの意思決定の優先順位や行動が変わってきた。だからこれからは、よりお客さまのことを理解することが重要になっていく」と藤田副社長は力説する。
イオンがめざすデジタル変革の姿
今後のリアル店舗は「(そこに)わざわざ行く価値」を提供しなければならない。キーワードは体験であり、顧客接点だ。「人手不足のなか、店内で働く従業員の効率性を高めることだけに着目していては駄目だとはっきりした」(藤田副社長)からだ。人と人とのつながりが希薄化するなか、デジタルの技術を使ってどのようにつながりをつくり出せるか、体験を通じて「その店でなければ得られない価値」を提供することが、藤田副社長が進める“お客さまに寄り添うための”デジタル変革のテーマとなる。
加えて、多くのリアル店舗を持つ強みを生かし、ネットとの相乗効果の創出にも力点を置く。冒頭で述べた環境変化により、SM1店舗当たりの商圏人口が減少する中、国内のSMビジネスのROI(投資利益率)は減少の一途をたどる。そうしたなか「(ネットスーパーや事前注文品の店舗受け取りなど)デジタル化を活用することで、商圏は広がる。何らかの理由で店舗まで移動できなかった人や店内で買物する時間がなかった人のニーズを取り込むことができるからだ」(同)。このように、イオンはリアルとデジタルの融合で、成長を確保していきたい考えだ。
具体的には、「家ではスマホを使ってネットスーパーで買物をし、店では同じスマホで精算できてレジに並ぶ必要がなくなるというように、お客さまが家庭にいても店舗にいても、シームレスなストレスのない買い物体験ができる状態をめざす」。そう語るのはU.S.M.HのICT本部長兼カスミ(茨城県)社長の山本慎一郎氏。「また、スマホアプリ等を通じて、個々のお客に合ったプロモーションを打ち出すことにも取り組んでいく」(山本氏)