ドアダッシュも「自動走行」に参入!? 日米に押し寄せる「小売物流自動化」の波

監修:山内 明(知財ランドスケープCEO/シニア知的財産アナリスト〈AIPE認定〉/弁理士)
文:川瀬健人(川瀬知的財産情報サービス/知的財産アナリスト〈AIPE認定〉)
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米国市場の人件費高騰問題と日本市場の人手不足

 ドアダッシュの米国市場での成功は、同社の発表するForm10K(米国における上場企業の発行する有価証券報告書に相当する書面)で、高い技術力とDashersからの支持によると整理されています。

 具体的には、ドアダッシュは車両単位ではなく、歩くことまで考慮した物流モデルを構築・運用するICT技術によって、Dashersに高い報酬額を支払うことを通じて多くのDashersを惹きつけ、事業を拡大してきました。一度取り付けた支持を維持するために、世界的な新型コロナの流行の最中には無償でアルコール類やマスクを支給するなど注意深く対応しています。

 その同社にとって、無人宅配車両を事業化することは、Dashersの反発を招きかねません。それでも同社が物流の末端に至るまで自動運転で置き換えることを検討する背景には、米国物流業界で配送員の待遇改善を求める社会的な運動があります。今までウーバーやドアダッシュといった配送スタートアップは、いわゆるギグ・ワーカーを活用し、正社員(従業員)を用いないことで配送コストを低減し、事業を拡大してきました。しかしながら昨今、配送員による賃金支払いや福利厚生などの面で待遇改善を求める訴訟が認められる例が増えており、そもそも雇用によらないビジネスモデルを疑問視する声も表れてきています。

 この動きは格差是正を求める動きと緊密に連動しており、米国社会全体で大きな動きとなっています。そのため、物流業界を席巻したドアダッシュも、ビジネスの構造転換を余儀なくされているのです。

 翻って日本を見ると、物流現場で人手不足が叫ばれて久しく、すでに人材確保が課題となっています。たとえ規制緩和によりギグ・ワーカーを活用するビジネスモデルが導入されても、それが一時しのぎに過ぎないことを、米国特許の状況は指し示しています。これを対岸の火事とせず、自動化を踏まえた長期的視野に立った事業戦略の立案を行うことこそ喫緊の課題であると言えるのではないでしょうか。

<三井物産戦略研究所・高島勝秀のひと言解説>

 プロモーション活動の最適化は、まさに米国リテール産業で最も注力されている分野のひとつです。

 従来は「全商品がすべての来店客に対して安い」というプロモーションが主流でしたが、デジタル技術の活用により、会員プログラムやアプリといった、ロイヤリティの高い顧客に対する販促が容易に行えるようなりました。そうした分野にドアダッシュが注力するのは納得できることであり、それは運び方(物流)の最適化も同様のことが言えます。

 そして、「Dashersによらない無人配送の研究開発」の取り組みは、さらにその上を行く取り組みと考えられます。自動配送の中でも、一般家庭への宅配はエリアごとによる条件の差異が多く、対応が難しいことで知られている領域です。そこにあえて挑戦していることに、同社の先進性と野心を感じます。

 倉庫間輸送(ミドルマイル)の配送網をまず構築し、それらを円滑に行ったうえで集積デポから注文者宅(ラストマイル)を行うという流れは米ウォルマートも行っており、正攻法と言えます。サプライチェーンの「川下」を極めるために、その前工程に相当する「上流(川中)」も適切に対処するというのは、物流を滞りなく行うためのカギとなります。

 ドアダッシュの特許取得を通じた自動運転技術開発の取り組みは、まさに省人化対策におけるビジネスモデルの転換(DX)の先端事例と言えます。本件で最大の課題となると思われるのが、「安全性」の問題です。一口に「安全性」と言っても「荷物を損壊しない安全な運転」に加えて、「荷物が第三者によって汚損されない仕組み」、さらには「受取人が受け取るにあたり、物品が誰かに取られたり、情報が奪われたりしない、安心感のある仕組み」とさまざまな課題が考えられます。

 それらの「安全性」を担保するための技術の確立とノウハウの蓄積が、今後どの程度スピーディに行われ、実装されるかがポイントになるでしょう。

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