コロナに負けない!地元飲食店のテイクアウトを応援する地方百貨店の「真価」
「デパ地下」をもつ百貨店の強み生きる
応援プロジェクトを即座に立ち上げられたのも地方百貨店の信頼があってのことだ。そもそものきっかけとなった松本カリー推進委員会は松本カリーラリーを主催している。松本カリーラリーは松本市内のカレー店をスタンプラリー形式で巡る冬のイベント。松本のカリー文化を全国に広めるのが狙いである。6回目となる今年は90店舗が参加した。昨年、クラウドファンディングで資金を募り、4店舗の名物カリーを再現したレトルト商品を開発した。商品開発に協力したのが井上百貨店だ。レトルトカリーは井上百貨店の店頭でも販売している。
井上百貨店にとって地元応援は今に始まった話ではない。百貨店の「目利き力」を生かし地域の異才を発掘し、商品化から販路拡大まで幅広く支援してきた。目利きした松本の逸品を全国に知らしめるため、首都圏戦略の一環として、横浜市の京急百貨店の大信州展に「井上百貨店」のブースを立ち上げ、コラボ消費を陳列するなどしていた。いわゆる「百貨店in百貨店」である。
コラボ商品と言えば地元の信州蜂蜜本舗と共同で立ち上げた「松本みつばちプロジェクト」が地元で有名だ。百貨店の屋上の養蜂場で採取したはちみつを精製し、「城町はちみつ」として販売。そのはちみつを材料に、地元業者と提携してカステラなど様々なオリジナル商品を開発してきた。期間限定も多いが、「信州はちみつキャンディ」のように定番化したものもある。
井上百貨店のテイクアウト応援プロジェクトは消費構造の変化にあえぐ地方百貨店のビジネスのヒントになる。まずは「デパ地下」を持つ百貨店の強みが生きている。厳密に言えば郊外型店舗のアイシティ21の食品売り場は地下ではないが、デパ地下と同じく商品の価格帯が広い。大衆的な居酒屋から高級レストランの総菜まで幅広く扱うことができた。前述の「ちょっと贅沢」も百貨店の得意分野だ。
応援プロジェクトとはいえそれだけでお客は商品を手に取ってくれない。「足繁く来店下さるお客様が毎回楽しんで頂けるよう、参加店舗のラインナップを替え、店舗によってはメニュー変更をお願いしたりして“飽きさせない”工夫を意識しています」と井上常務執行役員は言う。こうした努力が奏功して売れ行きも好調。ゴールデンウィーク企画ではラインナップを大幅に増やしたにもかかわらず連日完売となった。
聞けば今回参加した地元飲食店で従来から井上百貨店と取引があったのは少数だという。ほとんどは今回の応援プロジェクトをきっかけに取引が始まった。松本山賊焼応援団、城町バルなど地域活性化に情熱を傾ける団塊ジュニア、経営者にしては若手層とのつながりができた。コロナ禍の収束後、松本カリーラリーと取り組んだレトルト商品の開発のような地方百貨店ならではの支援ができるのではないかと井上常務執行役員は考えている。
百貨店自身がさまざまな生き残り先を模索する中、井上百貨店の地元企業を育成するビジネスモデルは有望な選択肢のひとつだ。地方創生が求められる中、奇しくもコロナ禍によってその真価が試されたかたちだ。