1万2800以上の小売ブランドが「セントリック」PLMを導入する理由とは?
MD、商品企画開発から調達、販売まで情報一元化で収益性向上へ
小売業のDX、デジタル化が進む中で、自社の生産性向上だけでなく顧客のファン化を進めるソリューションに注目が集まる。様々な試行錯誤が続く中で、ここにきて関心が高まっているのがPLM(プロダクト・ライフサイクル・マネジメント)という考え方だ。モノづくりの効率化や生産性向上の観点で製造業において導入が進んでいたPLMだが、この数年、特に小売向けに特化したPLMへの関心が高まっている。少子高齢化、市場競争激化や消費構造の変化など小売業を取り巻く社会環境が変化する中で、小売向けPLM活用のメリットはどこにあるのか、PLM大手であるセントリックソフトウェアの日本事業責任者の橋永重弘氏に話を聞いた。
小売業向けPLMはMD、商品企画開発、調達、品質管理の全プロセスを一元管理
―PLMは、製造業向けのソリューションとして世界的に普及が進んでいます。ここにきて日本の小売業が注目する理由はどこにあると考えていますか。
橋永 セントリックソフトウェアは製造業向けに培った長年の経験とノウハウを生かし、小売業向けのPLMという新たなコンセプトのソリューションの開発をスタート、2006年にファッション小売業界に特化したPLMソリューションとして「Centric 8」を投入しました。以来、世界中のお客様からの要望を標準機能として搭載することで、着実に製品を進化させ、標準機能をお客様別に設定(コンフィグレーション)を施すことでカスタマイズ開発不要で短期間でPLMを実装することを可能としました。現在、当社の小売向けPLMは1万2800社を超える小売ブランドに活用されていますが、国内外での導入事例が増えソリューションへの信頼感が増すとともに、変容した新たな消費行動に対応するために有効な対抗策として、また原材料の高騰、サプライチェーンの混乱など世界共通の課題の解決策として小売向けPLMが有効であることの認識が少しずつ浸透してきたからではないでしょうか。
―小売業向けに特化しているポイントは何でしょうか。
橋永 小売業向けPLMはエンジニアリング志向ではなく、コマーシャル(商業的)な視点から、小売におけるMD、商品の企画開発、調達、品質管理といったプロセスを重視している点に特徴があります。市場ニーズに合った商品開発、商品の的中率向上、企画開発業務の効率化と迅速化により市場投入までの期間短縮を図ることをねらいとしています。
従来、各製品カテゴリーの担当者とサプライヤーがすり合わせで行っていた商品開発業務は、クリエイティブである一方で属人的であったりアナログ的な側面を持っています。情報管理も閉鎖的になりがちで、社内でも他の製品分野の商品企画の情報が見えなかったり、OEM先(他社ブランドの製品を製造する事業者)の生産進捗が把握できなかったりと情報連携ができていないケースが多いのが実情でしょう。セントリック導入企業様ではPLMにより商品開発工程を標準化、あらゆる商品関連情報を捕捉し一元的に管理、可視化することで様々な複合的な効果が生まれ、商品投入期間を短縮、品揃えの最適化、収益性の向上を実現しています。
―欧米ではPLMの導入が進んでいます。しかし、日本では大手企業にとどまっている状況です。
橋永 日本の小売業界ではそもそも小売向けPLMという考え方自体を知らない経営者が多い。欧米企業の場合、組織構成上も責任範囲が明確なので、役割別業務の協業プロセスが定義しやすく、商品企画業務をシステムで管理する効果もわかりやすいため、PLMを導入しやすい環境が整っている面はあるでしょう。日本企業の商品企画業務はノウハウが特定の個人やグループに蓄積されていることも少なくありません。周辺部門と調整しながら自らの商品開発を進めるのが精いっぱいで、隣の部門が何をやっているかを知る由もなく、ノウハウを集めて協業する、最適化するという発想は少ないかもしれません。商売上の競争相手である海外企業と国内企業の間ではこの領域での情報基盤に大きな格差が生じていることすら認識できていないことには危機感すら覚えます。現場の声が強いためにシステムで管理する発想がなく、残念ながらPLMへの関心が高いとは言えないのが現状です。グローバル経済の一員として海外の競合企業に打ち勝っていくためにも、日本の小売業は情報基盤の面で格差が生じている事実に目を背けてはいけないと考えています。
コロナ禍による市場環境の急変でもPLMで迅速対応が可能に
―コロナ禍で消費者の行動も変わりました。これまでの発想やノウハウが通じなくなっています。
橋永 コロナ禍は消費行動に大きな変化をもたらしました。国内では一斉にオムニチャネル対応が広がりました。ネット通販では注文前に類似商品がレコメンドされる仕組みは一般的であり、コストやトレンドへのより高い感応度と柔軟性が求められています。市場動向と競合企業が存在する以上、プレシーズン前の商品計画通りにすべての商品を売り切ることはできないという前提に立つと、プレシーズンとインシーズンを連続的に管理する必要性が生じます。この連続性の担保は容易ではないため、柔軟で弾力的な対応が必要となる売場の要望と商品開発プロセスにギャップが生じているとも言えるでしょう。前シーズンの売上分析及びトレンド分析から来シーズンのMD計画を立案し、それを実現するための品揃え計画に変換、さらに個別の商品計画に反映させていくのが標準的なプロセスですが、商品企画開発のアナログで属人的な管理手法が業務の連続性を分断させているのです。市場環境の変化に柔軟に対応するには、組織全体で売上計画とそのための商品展開、適切な市場予測をフィードバックさせながらサイクル型でとらえて商品開発を行うための情報基盤が必要とされています。従来型の業務フロー、業務サイクルからの発想とは異なるアプローチが求められるのです。
―変化する市場環境に対し、スピーディに対応するためにはデータの活用は不可欠です。
橋永 PLMは単なる商品企画開発の基盤としてだけでなく、SCM(サプライチェーンマネジメント)の前工程を担う事業戦略ソリューションとも位置づけられます。MD計画から商品開発や調達など一連の一気通貫プロセスにおいて正確なリアルタイム情報を一元化して提供しますので、これまでシステムのサポートが無いゆえに空白地帯となっていた商品企画段階のSCM関連情報を埋め、PLMは調達領域の実行系システムの側面も持つことから、後続プロセスの正確性、柔軟性向上に大きく貢献できます。
―海外ではセントリックが高く支持されているようですが、実際に小売業や消費財メーカーではどのようなかたちで課題解決に貢献しているのでしょうか。
橋永 海外のセントリック採用企業においても、導入前は属人的な商品開発プロセスとそれらに起因する業務上のエラーの発生、商品情報がExcelやメール、共有フォルダに分散するなど国内企業と課題の共通性は高いといえます。全体を把握するベテラン社員への業務集中によるボトルネックの発生、ブランド別やカテゴリー別などチームごとに異なる業務品質差異、商品数が増えることでサンプル依頼とレビューのやりとりも煩雑化し業務負荷が増大、社内にいくつも存在する機能別の管理Excel帳票、類似するExcel帳票への転記など付加価値が低いが負荷の大きな業務の常態化、正確な情報を必要なタイミングで入手できない、企業の成長とともに業務が複雑化し業務負荷の増大により目標達成が困難、部門やブランドごとに管理ルールや帳票も違うために全般的な原価が把握しづらい、企画や生産の進捗が見えない、データが揃わないために意思決定のための準備に時間を要する、時代が要請するサステナビリティやトレーサビリティ等の規制対応の負荷が大きいといったこれらの多様な課題の解決を支援しています。
―海外ではGMS(総合スーパー)での導入事例も出てきています。
橋永 とくにPB(プライベートブランド)事業での導入事例が増えています。イギリスのテスコ(TESCO)、アメリカのビッグロッツストアーズ(BIG LOTS STORES)、ドイツのアルディサウス(ALDI SOUTH)など地域を代表する有力小売業で製品横断的なマルチカテゴリー対応PLMとしてセントリックの活用が進んでいます。その多くはアパレルやキッチン用品、家具やコスメ、食品のPB商品の企画開発業務にPLMを導入しています。GMSのお客様の特徴ですが、DX推進の中核としてPLMを位置付け、社内だけではなくグローバルとローカルのサプライヤー管理や商品開発OEM先との協業にPLMを活用しています。セントリック導入企業では製品に関する検索時間の3割削減、データエラーの2割減、素材調達ミスの3割減、それまで2週間かかっていた製品詳細仕様の入力作業を1.5日に短縮、カテゴリーマネージャーのキャパシティ5割拡大、同じ陣容で2倍のSKUを販売、製品開発期間の2-3割削減などリアルな導入効果が確認されています。
国内ではPB商品の企画開発などにドン・キホーテが導入
―国内ではドン・キホーテなどを運営するパンパシフィック・インターナショナルHDがセントリックPLMを導入しています。
橋永 ドン・キホーテ様はアパレル、雑貨、家電など様々なPB商品を開発しています。同社では多岐にわたる商品管理を手作業で行うことには限界を感じており、そこでPLMを導入し、商品企画から製品仕様の管理、調達、取引先管理などPB商品にかかわるあらゆる情報を一元管理することをご提案しました。標準機能が充実しておりコーディングなしですぐに機能を活用できる点や、当社の小売業向けのノウハウやコンサルティング能力をご評価いただきました。そのほかにもアシックス様が2016年から、ワールドワイドで展開している競技用および一般用シューズ、アパレル製品すべての商品開発にセントリックを活用しています。スタートアップ企業ではZOZOグループでD2Cブランド事業を展開するyutori様がセントリックPLMを用いて、全ブランドの品揃えレビューを実施することで、全社的なMD業務の品質を向上させました。商品の的中率を大幅に改善し、プロパー消化率の向上で収益性を向上させています。そのほかにも国内ではアパレル大手、総合商社、ファブレス化粧品ブランドでの導入実績があります。
―これからPLMの導入を検討している企業へのアドバイスはありますか。
橋永 PLMはMD、企画、調達、品質管理、販売、マーケティングなどチーム横断の共通基盤となるシステムです。導入に際しては各チームのリーダー級の人たちが主導し、経営サイドのサポートを受けながら進める必要があります。導入検討時には、部門間の調整や明確な目的の設定、大局的な意思決定が必要となり、ボトムアップの検討だけではプロジェクトが途中でストップする可能性があるかもしれません。確実な導入のためには盤石なプロジェクト推進体制の構築が必要になります。
―9月に東京で「Centric Day Tokyo 2023」をリアルイベントとして開催しました。会場での関心も高かったようです。
橋永 この1年で進化したセントリックのソリューションの全貌を4つのセッションに分け、ソリューション概要から高度な活用シナリオまでご紹介しました。導入企業4社によるパネルディスカッションでは、PLM導入検討の背景から選定理由、プロジェクト成功につながるヒントなどリアルな声をお伝えすることができ、高い関心を集められたと感じています。PLMを活用したプロセス改革や企業変革に正面から取り組んでいる企業の話を直接聞き、参加者がPLMの必要性を再認識していただく機会を提供できたと思います。今後も、PB事業の拡大を目指す小売業のお客様にセントリックのPLMをアピールしていきたいと考えております。
―11月16日にはダイヤモンド・リテイルメディア主催・セントリックソフトウェア協賛でウェビナーを開催されますが、視聴者にはどのようなことを伝えたいと考えていますか?
橋永 とくにPB事業の拡大を考えている小売業に当社のPLMのソリューションを知っていただきたいです。また国内で既に流通している商品を海外展開する際の商品情報の整理や規制対応の面でPLMが貢献できると考えています。日本の企業はIT活用に対して慎重すぎる面があると感じます。本当に必要なのか、他に方法はないのかとギリギリまでIT投資の決断を引き延ばす傾向があると思います。部署を超えての検討活動を始めることすらままならないというケースも散見します。一方、世界のお客様に目を向けると、これだけの実績があるならばと、ソリューション検証はそこそこに、システムどう使い倒すか、プロジェクト完了時のゴールの明確化などに注力しながら積極的にIT活用を進めています。このデジタル技術の活用に対する姿勢の違いが事業運営の柔軟性、スピード、そして収益性の違いに影響を及ぼしています。そもそも従前の課題に対して目を背けていてはさらに後塵を拝することになりかねません。セントリックのPLMが小売業における商品開発を担う変革のための基盤として活用され、国内小売業の活性化に貢献できることをお伝えしたいと考えています。