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ウォルマートをも打ち負かす! アメリカ最強スーパーを形づくる4つの条件とは

米国では伝統的に、食品を販売する小売フォーマットとしてスーパーマーケット(SM)以外の小売業の企業規模が大きい。ウォルマート(Walmart)を筆頭に、伝統的SMを苦境に追いやっている。そうしたなかで、米国では大手を打ち負かす強いSM企業がいくつもある。有力リージョナルSMを含むそれら企業はなぜ強いのか? 鈴木敏仁氏が解説する。

規模が大きい企業に局地戦で勝つ!

 詳細は後述することになるが、テキサス州に本拠を置くH-E-B(H-E-B Grocery)という優秀なスーパーマーケット(SM)企業が、ウォルマートやクローガー(Kroger)と正面から競合して負けないどころか勝ってしまっている状況を目の当たりにしたことが何度もある。

テキサス州とメキシコに店舗展開するH-E-B。その店舗競争力はきわめて高い

 つい最近では、ダラスに初進出した店舗が驚くほど繁盛していて、興味があったのでその目の前に立地しているクローガーマーケットプレイス(スーパーセンター型の大型フォーマット)を訪問してみたらガラガラで、勝負がついてしまっているのを目撃したのである。

 カリフォルニア州では、ディスカウント型のウィンコフーズ(WinCo Foods)が出店し、クローガー傘下のラルフス(Ralphs)が閉店して撤退した例を私は少なくとも2件見ている。

 たとえばウォルマートスーパーセンターが出店すると、周辺にアルディ(Aldi)やダラーゼネラル(Dollar General)といった小型店が集まってくる。

 強いウォルマートが出店すると消費者の新たな人流ができて、目に付くことになるので宣伝が必要ない、小型なので利便性が高く大きなウォルマートを補完してしまう、といった理由が背景にあり、よくある事例である。

 この場合、売上規模の大きなウォルマートを撤退させるようなインパクトはないが、薄皮を剥ぐように売上を奪ってしまうので、ウォルマートにとっては目の上のこぶのような存在となるのである。

 アメリカは伝統的なSM以外の食品を取り扱う小売企業の規模が大きい国である。ウォルマートが代表で、次いでアマゾン(Amazon.com)、コストコ(Costco Wholesale)、CVS ヘルス(CVS Health)、ウォルグリーン(Walgreens)、ターゲット(Target)などなどだ。

 彼らをアメリカの業界用語で「オルタナティブ(代替)フォーマット」と呼ぶのだが、ウォルマートやコストコは“代替”とはもはやいえないような存在となっている。

 代替フォーマットとして最もわかりやすいのはアルディだろうが、アメリカではいまやこの企業が最も勢いがあり、当然のことながらウォルマートだけではなく伝統的SMも完全に食われてしまう。

 一方、伝統的SMフォーマットの売上上位で知名度の高い企業はクローガー、アルバートソンズ(Albertsons)、アホールドデレーズ(Ahold Delhaize)だが、既述のごとく代替フォーマット企業や、ランキングでは彼らの下あたりに存在する強いSM企業が競合として、登場すると負けるケースが多い。

 要するにアメリカの最大手の伝統的SMは、店舗数が多く売上高規模は大きいが、局地戦では負けるケースが多いのである。

 私が独断で選ぶとするならば、食品を売る主流大企業と競合して負けない企業は、パブリックス(Publix)、H-E-B、アルディUSA、トレーダージョーズ(Trader Joe’s)、ハイヴィー(Hy-Vee)、ウェグマンズ(Wegmans)、ウィンコフーズといったところである。

 彼らの特徴をまとめるならば、以下のとおりだろう。

特徴❶
非上場のファミリー経営または社員持株会社

 非上場のメリットについてはここで書くまでもなく、専門書を参照していただきたいが、アメリカのSM業界ではこのセオリーはほぼ100%適合している。依然として創業家が経営している企業としてはH-E-Bとウェグマンズが代表的で、パブリックスは創業家が一線を退いているが、創業したジョージ・ジェンキンスの言葉や写真を今も引用するなど、創業家カラーの濃い企業である。

 一方のクローガーやアルバートソンズは度重なる買収で大きくなってきた企業で、オリジナル企業や創業者のカラーは皆無だ。

 また社員持株会社のメリットもいうまでもないことだろう。自分の会社だという意識が社員に強いのでモチベーションの維持に大きく寄与している。

特徴❷
社員を大切にする社風

 “称賛される企業”や“女性が働きやすい企業”といった定性データをもとにしたランキングの常連なのがパブリックスやウェグマンズである。

フロリダ州を地盤に店舗展開するリージョナルSMの雄の1つがパブリックス

 ランキングの資料としてウェグマンズの社員アンケートのサンプルが掲載されていたのだが、「入社したときはあらゆる人から歓迎された、どの部署でも上司は私を理解しようと努めてくれた、ワークライフバランスを重視してくれた」というコメントが印象に残っている。

ニューヨーク州を地盤に店舗展開するウェグマンズ

 売上高を伸ばすという企業成長よりも、社員を大切にすることのほうがプライオリティが高いのだろうと思っている。売上高成長はその結果であるという考え方である。そのため新規出店のスピードが遅い企業が多い。上場していないので売上高の伸びを気にする必要はない。

 これも高いモチベーションの源泉となっていることはいうまでもない。

特徴❸
優れた顧客サービス品質や規律

 このモチベーションは店頭において、優れた顧客サービス品質、ゴミの落ちていない店内や店外、陳列の乱れのない整然とした売場、お客への声かけ、といった店舗環境のバックボーンとなる。

 私はアルディで何度も、店員の技術力の高さを目の当たりにしている。ディスカウント型だから低レベルで安い労働力を使っていると考えている人がいるかもしれないが、実は真逆なのだ。パブリックス、H-E-B、ウェグマンズ、ウィンコフーズでも同様、目を見張るような店員の動きを何度も目撃している。

特徴❹
チェーンストアとしてのローカライゼーション

 ダラスに進出したH-E-Bの4店舗はほぼ似通った商圏に立地しており、フォーマットもまったく同じである。だからアソートメントも同じ、とならない点がH-E-Bらしい。カテゴリーごとによく眺めると微妙に品揃えが違うのである。これには私自身が驚き、これがH-E-Bなのかと納得したものである。

 究極のローカライゼーションを実現しているのがトレーダージョーズだ。本社が決めるゾーニングやプラノグラム(棚割りシステム)は存在せず売場が考えるのだが、アルバイトにまで任せてしまうことがあるという。

 またプライスカードやエンドのトップボードなどすべて手書きで、壁面に並んでいる看板はすべてローカルコミュニティが誇りにしている何かだそうだ。たとえば海が近くにあるならばビーチ、学校が有名ならば学校、といった具合である。

 顧客サービスも徹底している。お客との雑談は奨励されており、長話をしている光景を何度も見たことがある。ローカルに溶け込むためには標準化された形式だけのサービスではダメなのである。

 アメリカは資本主義の権化のような国で、ファミリー経営は時代遅れで、トップダウンな本社主導型チェーンストアが全盛だ、と考えている方も少なくないことだろう。ところが実際はそういうわけでもないのである。

 アメリカの食品小売業界は世界的に見ても非常に強い企業がひしめいていると思っている。なぜなのかはわからない。彼らから学ぶことは依然としてたくさんあると思っている。

 

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