欧州ホームセンター(HC)市場は現在、首位の仏アデオ(Adeo)と2位の英キングフィッシャー(Kingfisher)が覇権争いをしている。ここ数年、好調のアデオに対して、キングフィッシャーは苦戦が続く。キングフィッシャーはどのようにして巻き返しを図るのか。アイルランドの首都ダブリンにある「B&Q」店舗取材からキングフィッシャーの最新戦略に迫る。
※本記事は「グローバルDIYサミット2019」のプログラムの1つ、ダブリンのHC店舗視察ツアーで取材した内容をもとにしている
欧州10カ国で1300店舗展開
最近は利益面で苦戦
キングフィッシャーグループは現在、イギリス、フランスを中心に欧州10カ国で約1300店舗を展開しているホームインプルーブメント企業である。
主力フォーマットは、イギリスとアイルランドで出店している「B&Q」(約300店舗)と「Screwfix」(約600店舗)、フランスで展開している「Castorama」(約100店舗)、「Brico Dépôt」(約120店舗)である。
2019年1月期の売上高は、対前期比0.3%増の116億ポンド(約1兆6000億円)でかろうじて増収となった。一方、小売部門のセグメント利益は、同11.4%減の7億ポンド(約100億円)と2ケタ減益となった。グループ全体の営業利益も2期連続減益となり、ヴェロニカ・ロリーCEOの引責辞任が発表された。
中期経営計画で取り組む3つの戦略
そのキングフィッシャーが巻き返しを図り、この3年間取り組んできたのが「ONE Kingfisher(ワン・キングフィッシャー)」戦略だ。現在はこの5カ年計画の4年目に当たる。
ワン・キングフィッシャー戦略の柱となる政策は3つ。
1つ目は、商流の統合。国、フォーマットを問わず、商流を統合することで、スケールメリットを生かして原価を低減させる。さらに、プライベートブランド(PB)商品もグループで共通のものにする。これにより、高品質な商品を低価格で販売することをめざす。実際にこの3年間で、グループの40%の商流を統合した。
「B&Q」の店舗視察ツアーでは、キングフィッシャーグループのPB商品を紹介してもらった。持ち手のところがゴム製で滑りにくくしているバールや、IoTで音楽を流すことができるライトが最近の注目商品であるという。
2つ目は、デジタル活用だ。ECプラットフォームを各国で整えることに加えて、店舗受け取りサービスのクリック&コレクトに力を入れる。
さらに、スタッフの店舗作業効率化にも取り組む。写真のように、スマホアプリを開発。店舗スタッフはこのアプリを見ることで、在庫量をリアルタイムで把握することができるなど、生産性を高めるためにデジタルを活用している。
3つ目は、オペレーションの効率化である。EDLP(エブリデー・ロー・プライス)戦略を強化することで、店内作業を軽減させることや、上記のアプリを導入することで、店舗作業を軽減させている。
さらに、B&Qの店舗スタッフに聞いたところ、ガーデニングコーナーでは自動で水やりするスプリンクラーを導入している。これまで店が休みの日にもスタッフは水やりに出社しないといけない、など作業負担が大きかった。これも省力化に大きく貢献している。
上記の3つが「ワン・キングフィッシャー」の目玉施策である。
ただ、この改革の実行中も出血は大きく、ロシア、スペイン、ポルトガルで約50店舗を閉鎖。とくに業績の悪いカストラマは2018年秋にCEOが更迭されている。
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フォロワー30万人超!?B&QのSNS戦略
フォロワー30万人超!
SNSに力を入れるB&Q
そのほか、店舗取材で気になった点を挙げていく。
まずは、ガーデニングコーナーだ。前ページの写真のように、B&Qはガーデニングコーナーに力を入れている。そのガーデニングコーナーで取り組んでいるのが、SNSでの情報発信だ。
「ガーデニングコーナーはとくにSNS映えする。若者からの受けがいい」(B&Qスタッフ)。
実際、B&QのSNSアカウントを見ると、すごい数のフォロワーがいることがわかる。ツイッターが8万人、フェイスブックが30万人である。
アップされている写真はガーデニング関係が多い。写真だけでなく、動画も織り交ぜ、投稿頻度も高いことがわかる。
とにかく広い塗料売場
また、これはB&Qに限った話ではないが、ダブリンのHC店舗はとにかく塗料売場が広い。戸建て住宅比率が約7割あり、自分たちで塗装する文化が根づいているからだ。アイルランドでは、「Durux」というオーストラリアのメーカー(今年日本ペイントホールディングスが買収)がいちばん人気で、広く棚を確保している。
B&Qでは、Duruxに加えて、キングフィッシャーPBの「GoodHome」を販売。NBの約3割安い価格で販売しているが、「今はまだDuruxのほうが売れる」という。PBは大容量と小容量の両方を揃えている。
充実した休憩スペース
店舗内の飲食スペースも充実させている。
飲み物だけでなく、ハンバーガーやホットドックなどの軽食、パンも販売。空間デザインも工夫しており、飲食コーナーの壁だけ色を変えて、スタイリッシュなデザインを施している。席数は、40〜50席。
スタッフに確認したところ、B&Qの多くの店舗に飲食スペースを導入しており、満席になることも多いとのこと。買物のついでにくつろいで休憩するスペースの設置は、広い売場面積を持つHCに求められている。
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注目の新業態「GoodHome」がベールを脱いだ!
キングフィッシャーの新業態
都市型小型店「GooDHome」
最後に、ロリーCEOが残した、最後の遺産、小型新フォーマット「GoodHome」について触れる。
先ほど、PBの塗料で「GoodHome」ブランドがあると書いたが、今年の5月、コンビニエンスストアタイプの新業態「GoodHome」もオープンした。
場所はロンドン南部のウォリントンという都心部で、アイテムはホームインプルーブメント用品に絞り込んでいる。店内では、熟練のスタッフが接客するほか、デジタル活用により、新たな買物体験の創出をめざしている。
巨大倉庫タイプのB&Qとは異なり、コンビニフォーマットの新業態の実験店舗で、この業態でうまく利益を挙げられるようになれば、都心部の人口密集エリアにも出店できる、とロリーCEOは言う。
クリック&コレクトにも力を入れ、当日配送には6000アイテム、翌日までの配送には2万アイテムを対応させている。
欧州で苦戦が続いているキングフィッシャー。
新CEOはロリー氏が打ち出したワン・キングフィッシャー戦略を継続するのか、見直すのか。また、過去3年間のワン・キングフィッシャー戦略の取り組みはどのように数字に現れてくるのか。新業態「GoodHome」はうまくいくのかどうか。
欧州と日本では競争環境が異なる点もあるが、対アマゾン戦略、デジタル活用や省力化、都市型小型店の実験など、国内HCが見習うべき点も多い。
うまくいった点といかなかった点の両方とも、キングフィッシャーの戦略は多くの国内HCの参考になるだろう。