2023年の当連載1本目は、今年の天候予測におけるポイントとチェック項目、そしてウェザーMDを実践するにあたっての注意点を解説します。
2023年の天候予測のポイント
2021年秋頃から継続していたラニーニャ現象は、早ければ2~3月頃には終息する見通しです(ただし、終息の見解が示されるのは、その2カ月後)。ラニーニャ現象が終息すれば、平年並の気候となる可能性が高まります。2022年は夏が高温、冬は低温傾向だった地域が多かったのに対して、今年は昨年ほどの夏の暑さ、冬の寒さにはならないことが期待されます。
一方で、長期的なトレンドとして地球温暖化は進行しています。その影響は無視できない部分もあります。エルニーニョ・ラニーニャ現象発生状況や地球温暖化を考慮し、気温、梅雨、台風の各項目で、2023年に予想される天候予測のポイントをまとめます。
気温傾向
時期によって気温上下の波が大きい状態は続くでしょう。短いスパンで気温が急上昇したり急下降したりといった、短期間での陽気の急変は常に想定しておくべきです。とはいえ、月や季節でならしてみるとおおむね平年並というのが、最も確からしいシナリオです。もしエルニーニョ現象発生確率が高まれば、異常気象の発生リスクも高まります。
梅雨
梅雨と地球温暖化の関係は、まだ判然としない部分も多いのですが、地球全体の大気の温度や海水温が上昇傾向であるということから、中長期的視野に立てば夏が長くなる、すなわち梅雨入り・梅雨明けは徐々に早まっていくと考えるのは、無理のない仮説です。おおむね平年並の天候を想定すべき今年に関しては、極端に早い梅雨入り/梅雨明け、あるいは長梅雨は考えにくいといえます。
通常の梅雨時の天候の特徴は次のとおりです。
・ 梅雨の序盤は晴れ間の見られる日も多い、どちらかというと空梅雨傾向
・ 中盤は大雨ではないもののすっきりしない天気が続く状況
・ 終盤は晴れれば快晴、雨が降れば大雨と、抑揚の激しい天候
今年もこの流れを前提として計画を立てることをおすすめします。もしエルニーニョ現象発生確率が高まる場合は、長梅雨・夏の天候不順対策を検討しましょう。
台風
地球温暖化の影響で、海水温の水準も上昇基調にあります。日本に比較的近い海域でも台風が発生・発達できる状況となっています。日本近海で発生する台風は、陸地に接近するまでの期間が短いため、それほど強く発達しないことがありますが、日本からかなり離れた海域で発生した台風は、日本列島に接近するまでに十分発達することが予想されます。2022年9月には、台風上陸時の強さとしては、戦後の上位10位以内に入るレベルで台風14号が鹿児島県に上陸しました。
幸い、台風の予報技術が発達しているため、もし非常に強いレベルの台風が日本列島に接近する場合でも、その4~5日前くらいから比較的高い精度で予測されます。台風の接近・上陸を阻止することはできませんが、事前に状況を把握し、周到な対策を準備することは可能です。台風接近時の対処策と手順を体系化し確認しておきましょう。
2023年の天候予測におけるチェック項目
今年の天候が、ほぼ平年並の状況が継続するか、それとも状況が変化していくのか、もし変化が起こりそうな場合は、その兆しをなるべく迅速に察知し、対応策を再検討することも必要です。ここでは状況変化の兆しをとらえるためのチェック項目を列記します。日々の天気や週間予報は、ある程度見る習慣がついている方も多いかもしれません。ただ年に1~数回程度しか発表されない情報は、確認を忘れがちです。情報の種類に加え、発表日程もあわせて確認ください。
チェック項目① 「エルニーニョ監視速報」(毎月10日頃発表)
エルニーニョ・ラニーニャ現象は、発生した際の月あるいは季節ごとの起こりやすい気候状況が統計的に整理されており、おおむね数か月程度先の天候傾向を予測する上での重要な指標です。「エルニーニョ監視速報」は、エルニーニョ・ラニーニャ現象の現在の発生状況と今後の予測に関する情報で、毎月10日頃気象庁から発表されます。
今年とくに注意すべきなのは、エルニーニョ現象の発生可能性です。気象庁が2022年12月9日に発表した「エルニーニョ監視速報」によると、今春以降、わずかながらエルニーニョ現象発生の可能性があるとのシミュレーションをしています。もし今後、エルニーニョ現象が発生すれば日本付近では、夏は冷夏の、冬は暖冬の確率が少し高まります。
1980年代から2000年代にかけて、夏の天候に5年あるいは10年サイクルの周期性があるのでは、と言われていた時代があります。その中で、西暦の下一桁3の年と8の年は冷夏になる法則性がありました。2010年代はその法則性が崩れていますが、今年は下一桁3の年にあたります。
「エルニーニョ監視速報」の冒頭に記載されている2~3項目の概況的なコメントから、エルニーニョ現象・ラニーニャ現象の現在の状況、今後の発生確率と、前回発表内容からの変化の有無を読み取りましょう。
チェックポイント② 「暖候期予報」(2月21日発表)
6~8月の天候予測および梅雨の傾向に関する予測情報である暖候期予報は、今年は2月21日に発表されます。夏の天候に関して最も早くに発表される予報であり、今夏のMD計画を策定するにあたり必ず参考にすべき情報です。とはいえ、気象庁発表の予報内容をそのまま使うには、少し使いづらいかもしれません。気象庁の季節予報(1か月予報、3か月予報、暖候期・寒候期予報)は、低温の確率:平年並の確率:高温の確率という形式で発表されます。気象庁HP上での凡例では以下のとおりです。
予報内容をより分かりやすくするため、以下のように階級によって言葉に置き換えます。そして、上の方にいけばいくほど記録的な暑夏の可能性が、下の方にいけば行くほど記録的な冷夏の可能性が高まると考えて、夏物の仕入れ、販促強度などの規模の大小に反映するなど、MD計画の参考にします。
チェックポイント③ 「梅雨入り」が発表された日
梅雨入りのタイミングから季節の進み具合を把握し、盛夏期の天候を予測する上での一つの参考材料とすることができます。梅雨入りが平年より早まれば、季節が前倒し気味に推移していることが推測されます。一方、梅雨入りが遅れれば、季節が後ろ倒し気味に推移している可能性があります。前者であれば、梅雨明けが早まり結果的に夏の高温の可能性が高まりますが、梅雨入りが遅れれば梅雨明けも遅れ、結果的に天候不順な夏となる懸念が出てきます。
すでに盛夏期に向けての計画がかなり進んでいる時期ですが、販促の規模の調整などへの考慮が可能と考えられます。
チェックポイント④ 「寒候期予報」(9月19日発表)
2月に発表されるのは夏の天候を予測する暖候期予報。それに対して9月19日は、その先の冬(12~2月)の天候を予測する寒候期予報が発表されます。気象庁の発表する、「低い:平年並:高い」の確率分布に関する意味合いは、暖候期予報の項で説明しているものと同様にお考えください。いつ頃から寒さが厳しくなっていくのか、どのくらいの寒さか、日本海側を中心とした雪の量はどうか、太平洋側を中心とした空気の乾燥度合いは、といった観点での参考材料としてください。
ウェザーMDを実践するにあたっての注意点
もちろん、天候要因以外も、為替変動や感染症の流行状況、地政学リスクなど、考慮しなければならない事柄は山積です。とはいえ、
暑いと感じる=体温の上がり過ぎに関する体からのメッセージ=冷たいものを好む
寒いと感じる=体温の下がり過ぎに関する体からのメッセージ=温かいものを好む
という基本法則は常に成り立ちます。
ラニーニャ現象が発生していた2022年に対して2023年は、状況が少し異なることを前提とした品揃えを意識しておくことも重要です。たとえば冷夏傾向となった場合はどういった商品を注目すべきか、当社True Dataの購買データに基づき、気温が低い時に好まれるトップ10カテゴリをピックアップすると、以下のとおりです。秋冬向きの商品が多いのですが、夏場であっても冷夏傾向であればこれらのカテゴリはチャンスがあるはずです。
近年の気候変化の特徴で「極端気象」というワードがよく使われます。以前に比べて気温、降水量など様々な気象要素において、通常時からの振れ幅が非常に大きい現象が起こりやすくなっています。そのような難しい状況の中、気候に振り回されることなくうまく活用していただけるよう、是非参考になさってください。