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コロナ禍の支援策で企業倒産が減る中、医薬品小売業者の倒産が増える理由

政府のコロナ支援策によって、全国・全業種を対象とした企業倒産は20年も21年(1~9月)も対前年同期比で大きく減少している。その一方で、医薬品小売業者の倒産件数は増え続けている。この理由を解説したい。

コロナ禍でドラッグストア、薬店、調剤薬局、置き薬などの医薬品小売業者の倒産(負債1000万円以上、法的整理)が増加している。 oonal/i-stock

休廃業・解散は倒産の5倍発生

 コロナ禍でドラッグストア、薬店、調剤薬局、置き薬などの医薬品小売業者の倒産(負債1000万円以上、法的整理)が増加している。帝国データバンクが調査したところ、コロナ前の2019年は17件だったが、コロナが発生した20年は26件、そして21年は9月までに27件と増え続けている(図表❶)。このままのペースで推移すると21年は36件前後となり、12年以降の10年間で最多となる可能性が高い。

 しかし、コロナ禍において倒産件数が増加基調にある医薬品小売業者の動向は、ほかの業種の動向と逆行している。全国・全業種を対象とした全国企業倒産の動向を見ると、20年は7809件で対前年(8354件)比6.5%減少、さらに21年は1~9月で4534件となり対前年同期比25.0%も減少しているのだ。こうした動きは緊急融資や協力金をはじめとするコロナ対策の各種支援策の執行効果によるもので、ほとんどの業種が減少傾向となっている。

 そうしたなか、近年倒産した医薬品小売業者について分析すると、業界ならではの特徴が見えてきた。19年~21年9月に倒産した70件を分析すると、負債額が1億円未満の小規模倒産が59件(構成比84.3%)を占めた。また、倒産態様では66件(同94.3%)が清算型(消滅型)の「破産」を選択し、再建型(事業継続型)の民事再生法を選択したのはわずか1件。都道府県別では、東京(17件)、福岡(7件)、神奈川(6件)、北海道(4件)、埼玉、兵庫、広島(各3件)などで多く発生した。

 そして、業態別でも大きな特徴が見られた。それは、件数の大半を「調剤薬局」が占めていることだ。19年は17件中12件(構成比70.6%)、20年は26件中15件(同57.7%)、21年は27件中23件(同85.2%)が「調剤薬局」となり、2番目に多い「薬店」の件数を大きく引き離している。

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 コロナ禍における調剤薬局の倒産増加の要因として、通院による感染リスクを警戒した各医療施設への通院患者の減少が挙げられる。実際、令和2年度の調剤医療費(電算処理分)は7兆4987億円で対前年度比2.6%減少、処方せん枚数は同9.2%減少となり、とくに0歳以上15歳未満の層を中心とした減少が目立った。子供の感染を警戒した親が通院を控えさせたわけだ。中でも小児科や耳鼻科などでの減少率が高いといわれている。

 総合病院の近隣ではなく、小児科や耳鼻科を専門とするクリニックの専属的なかたちで営業を続けてきた調剤薬局のダメージは計り知れない。今後は、ワクチン接種率の上昇と感染者数の減少で通院による感染を警戒する人は減少していくことが考えられる一方、当面続くとみられるマスクの着用と感染防止策や第6波の発生による患者数の減少も考えられ、流動的な経営状態を強いられることになるだろう。

 裁判所が介在し債権がカットされる倒産(法的整理)とは異なるかたちで事業を終える「休廃業・解散」の動向にも注目だ。休廃業・解散は原則として借入金や買掛金といった負債を完済したうえで事業を終了させるケースを指し、原則として取引先に未回収金は発生しない。しかし、事業を停止した背景には業績悪化、後継者不足など何らかのマイナス要因があったことが推測され、業界動向を知るうえでは倒産動向と比較しながら分析する必要がある。

 医薬品小売業者の休廃業・解散の件数は19年、20年ともに165件で推移。21年は9月までに134件が確認され、同期間の倒産件数の5.0倍となっている(図表❷)。年換算すると180件前後のペースで、このまま推移すれば16年以降で最多となる。今後は、医薬品小売業者の倒産件数と連動した動きを見せる可能性が高い。

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