ヤマモリ 三林圭介社長、「ベンチャースピリット」で変革への挑戦を加速する

聞き手:阿部 幸治 (ダイヤモンド・チェーンストア編集長)
構成:両角晴香
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総合食品メーカーのヤマモリ(三重県)は、2022年6月、5代目となる新・代表取締役社長に三林圭介氏が就任することを発表した。133年続くヤマモリのトップが交代するのは、実に40年ぶり。三林氏は、17年に設立したグループ企業「Y&K VENTURE PARTNERS」でデジタル・トランスフォーメーション(DX)支援、マーケテイング・トランスフォーメーション支援、経営コンサルティングなどの新規事業に取り組み手腕を発揮してきた人物だ。先行き不透明なVUCA時代にいかなる成長戦略を描くのか。

社員の意識改革進め
22年3月期、過去最高売上

──40年振りの社長交代について心境を聞かせてください。

三林 私たちは1889年に三重県に創業し、2023年で135年目を迎えます。国内で100年以上続く企業はわずか2.54%ですから、歴史の重みを感じています。

 「経営は環境適応業」という考え方があるように、VUCA時代には、先達の視座を大切にしつつ、さまざまな変化に俊敏に対応する「ベンチャースピリット」を持つことが大切です。ただし、われわれが扱うのは食品ですから、当たり前のことを徹底的に行う「凡事徹底」の精神も忘れてはなりません。

 私はこれまで自動車業界や広告業界(主にデジタル業界がクライアント)で研鑽を積んできました。ヤマモリの資源をどう生かし、未来につなげるのかと考えたときに、既成概念にとらわれない思考で経営戦略をデザインし成果を促すのが組織の長である私の役目。腕の見せ所でもありますね。

ヤマモリ代表取締役社長 三林 圭介氏
「名古屋人が愛する丼シリーズ」を次なるフラッグシップにして、名古屋の定番土産として定着させたいと考えている

三林 圭介(みつばやし・けいすけ)
1975年生まれ、トヨタ自動車・博報堂を経て16年4月ヤマモリ入社、6月取締役執行役員就任、18年取締役常務執行役員就任、19年取締役専務執行役員就任、22年代表取締役社長執行役員(現任)

──現在、注力している活動はありますか。

三林 2021年4月、全社員が参加する社内改革プロジェクト「YTA(ヤマモリ・ターン・アラウンド)」を本格稼働しました。「生産性向上」「戦略的原価低減」「営業&マーケティング戦略」などのワーキンググループを設置し、部門の垣根なく企画・運営を行っていく社を挙げての一大プロジェクトです。

 先行き不透明なVUCA時代を生き抜くための絶対条件は、ヤマモリグループで働く仲間たちの意識を変え、倍速で多種多様な変革を起こすこと。倍速とは、これまで1分かけて書いていたメールを30秒で書くのは無理があっても、商談時の雑談を減らす工夫をして倍のプレゼンをすれば売上も増えるはずです。こうした努力を行うことで、社員一人ひとりの競争力と収益力が強化していると実感しています。

──円安、原材料費の高騰などありますが、直近の業績について聞かせてください。

三林 22年3月期は、コロナ禍という未曽有の事態の中、売上高は単体263億円、連結320億円と過去最高を記録しました。これは、コロナ禍の“おうち需要”により、家庭内消費を主軸とする商品を扱うメーカーに追い風が吹いたものです。一方、昨今の原材料価格の高騰は大きな逆風となっています。弊社も醤油とタイフードの価格改定を余儀なくされました。

健康軸にシフトし、成長を加速

──自社の強みをどのように捉えていますか。

三林 130年あまりの歴史の中で、ヤマモリはベンチャースピリットを胸に抱き、業界初のさまざまな革新を成し遂げてきました。1969年、いち早くレトルト殺菌装置の自社開発に成功し、レトルト「釜めしの素」を日本で最初に製造。単一工場としては国内最大規模群の生産量を誇っています。常温流通保管が可能で、軽量で取り扱いやすいレトルト食品は今後さらに、世界中で需要が高まっていくものと考えています。

 また、祖業となる醤油を醸造する過程で働く乳酸菌の力でギャバ(GABA、γ-アミノ酪酸)を生み出し、特許を取得しました。ギャバは血圧上昇の抑制やストレス低減といった働きが期待されています。

 近年、好評をいただいているのが、「無砂糖」シリーズ。焼肉のタレを無砂糖でつくるなんて無茶をする企業はヤマモリのほかにありません。

 大手食品メーカーと比べると企業体力がないヤマモリがやれることには限界があります。だからこそ三林憲忠会長が従前から策定しているニッチな領域を攻め、「ここまでやるか!」と、とことん突き詰めることです。

 そんな気概を持って21年にリリースしたのが食塩不使用の「休塩日のカレー キーマ/バターチキン」です。「塩が入っていないカレーなどおいしいのか」と懐疑的な方もおられると思いますが、シェフの松嶋啓介氏に監修をお願いすることで「おいしい」と「健康」を両立させました。

──また、食品メーカーとしては先駆けて、海外にも進出しています。

三林 ベンチャースピリットを象徴するかの如く三林憲忠会長が1988年にタイ王国にてビジネスに着手し、約35年を経てタイをハブに世界各国にマーケットを広げてきました。「タイクックシリーズ」は、身近な食材と時短調理の掛け合わせでタイ本場の味を家庭で手軽にお楽しみいただけます。コロナ禍のマンネリ化しがちなおうちごはんをサポートしていると思います。

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聞き手

阿部 幸治 / ダイヤモンド・チェーンストア編集長

マーケティング会社で商品リニューアルプランを担当後、現ダイヤモンド・リテイルメディア入社。2011年よりダイヤモンド・ホームセンター編集長。18年よりダイヤモンド・チェーンストア編集長(現任)。19年よりダイヤモンド・チェーンストアオンライン編集長を兼務。マーケティング、海外情報、業態別の戦略等に精通。座右の銘は「初めて見た小売店は、取材依頼する」。マサチューセッツ州立大学経営管理修士(MBA)。趣味はNBA鑑賞と筋トレ

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