服を売らないアパレル店「closet to closet」が数多くのメディアで取り上げられ話題となっている。closet to closetでは、不要になったアイテム3つを持参すると店内にある3つのアイテムと交換できる。物々交換に近い、新しいかたちのアパレルショップだ。なぜこの、服を売らないアパレル店が注目されているのか。運営元の代表に、運営実態を聞いた。
完全予約・有料チケット制の物々交換店
2019年にスタートしたアパレル店closet to closetは、お客が持参したアイテム3点を店内のアイテム3点と交換できる、新しい形態のアパレル店だ。店舗は完全予約制で、お客は参加チケット料金3000円を支払って入店する。
同店は常設店を設けず、期間限定で定期的に出店している。これまで原宿や代々木といった都内各所のレンタルスペースなどに50回以上出店して若者を中心に反響を呼び、累計来店者数は2000人以上にのぼる。若年層の来店を促したい百貨店から出店依頼を受けることもあり、毎週のように百貨店で開催していた時期もあったという。現在も最低月1回は開催している。
closet to closetが常時抱える衣料の在庫は、200~300着ほどだ。この在庫は、映像制作会社などの企業が不要になった衣料や、お客が余分に持参した衣料を受け取って増えることもある。
closet to closetが反響を呼んでいる理由の1つが、人々のエシカルファッション(人と地球にやさしいファッション)への関心の高まりだ。衣類の大量廃棄問題が叫ばれるようになり、道徳的・倫理的なファッションが注目されるようになっている。
closet to closetを運営するアパレルブランド「energy closet」代表の三和沙友里氏が同店を展開したきっかけも、エシカルファッションへの共感だった。三和氏は、「服を手に入れるのは楽しいが、手放すことにハードルを感じている人は多い。その問題を解消するために、『自宅のクローゼットづくり』を楽しめるcloset to closetをつくった」と説明する。
closet to closetでは、「商品と金額を見合わせる」という考えからの脱却をめざした。一般的な古着屋では、トレンド商品を高く、それ以外を安く買い取る傾向にあるが、closet to closetではどんな衣類も交換を受け付けている。(子供服、下着、水着、靴、靴下を除く)。
「値段をつけないことで、さまざまな価値観を持つお客さまがそれぞれ心から好きな服を選べるようにした。お客さま一人ひとりの価値観によって、既存の服の価値を再定義したい」(三和氏)
来店者の年代は、20代がボリューム層となっているものの、高校生から70代まで幅広い。三和氏は「ジェンダーや年代とファッションの嗜好は関係なく、『服が好きで大切にしたい』と思う方が集まってくれている。マス層を取り込むというよりは、同じ価値観を持つ方に知ってもらえるためのアピールをしたい」と説明する。
懸念は、店舗運営の再現性が低い点
こうした古着の「物々交換」という形式で懸念されるのが流通量の多いファストファッション商品の取り扱いだが、三和氏は「当然、持ち込まれるアイテムの中にはファストファッションもあるが、多くはない。お客さまは部屋のクローゼットに眠っている衣服を持ってきてくださるので、最近のトレンドではないものが多い」と述べる。
続けて、三和氏は「closet to closetの運営を続けていくうえで、とくに大きな壁は感じてない」としつつも、店舗運営の再現性が低いことを一つの懸念点として挙げている。もし今後、closet to closetの普及によって物々交換という形式のアパレル店が市井に浸透した場合、同様の店を出そうと思っても、誰でも簡単にできる形態ではないと感じているそうだ。
三和氏は今後、closet to closetの規模を大きくしたり拠点を増やしたりする予定はないが、新しいサービスの思案は続けたいという。現在、三和氏が力を入れるのは、古着にクリーニングやリペアを施す「アップサイクル商品」の展開だ。取り組みはすでに行われていて、三和氏が思案・企画したリメイク古着を、外注のリメイククリエイターが製作、オンラインショップで販売している。
しかし現状では、アップサイクル商品の素材となる商品にブランドタグやブランドデザインがある場合、商標権侵害にあたってしまうなどの問題があり、三和氏は製作方法や販売方法を模索中だという。「現状の法体制ではアップサイクル商品を販売しやすい状況にあるとは言えないが、ゆくゆくは法改正されるだろうと見込んでいる。きたる時代に備えてしかるべき製作方法や販売方法を検討したい」と三和氏は話す。
こうした取り組みを続ける三和氏の思いとして、衣類の廃棄問題への危機感以上に、ファッションを「楽しみたい」という意識が強いという。
「古着を通じて生産者へのリスペクトを感じたり、衣服の歴史を汲み取ったりしてファッションを楽しんでもらえたら本望。服が循環する拠点の1つとしてcloset to closetを機能させたい。まったく新しい衣服を生み出すというよりも既存の衣服を使って、再定義した価値観をお客さまに伝えていく」(三和氏)
冒頭で説明したように、百貨店からの出店依頼もあり、多くのメディアに取り上げられたことでcloset to closetの認知度が着実に高まってきている。こうした取り組みによって、エシカルファッションに対する共感が今後広く浸透していくかもしれない。