第123回 「営業時間統一」という常識打破に向け、SCに求められる対応とは
前号で店舗(テナント)の営業時間の統一は、人出不足などで今後は難しくなると指摘した。しかし、これまで統一営業を行ってきたショッピングセンター(SC)が、いきなり店舗ごとにバラバラの営業時間を認めたことによるトラブルも散見される。今号では、これまで「運営管理の統一性」を旨としてきたSCが、テナントの営業時間にフレキシブルに対応するために必要な事柄について考えいく。

SCが営業時間を統一する理由
これまでSCが統一の営業時間にこだわってきた理由を端的に表すのが、日本SC協会が定めるSCの定義にある。その定義とは以下のとおりである。
【SCの定義】
- ショッピングセンターとは、1つの単位として計画、開発、所有、管理運営される商業・サービス施設の集合体で、駐車場を備えるものをいう。
- その立地、規模、構成に応じて、選択の多様性、利便性、快適性、娯楽性等を提供するなど、生活者ニーズに応えるコミュニティ施設として都市機能の一翼を担うものである。
この「1つの単位」という言葉がSCの根源的価値を表している。営業時間や休業日が異なる商店街とは違い、計画的に開発されたSCは、開業後も運営管理スタッフが常駐する。そして、店舗間の調整や顧客の要望や意見、ときにはクレームに対峙することで、多数のテナントの集まりであっても寄り合い店舗ではなく、「一つの単位」として消費者から認知されることを標ぼうした。
テナントの変化で「統一的運営」に支障も
この定義が作られた背景には、1969年に開業した日本初の本格SC「玉川髙島屋S・C」(東京都世田谷区)がめざした日本のSC像にある。当該SCが開業した56年前は、テナントにナショナルチェーンは少なく、多くはパパママストアと呼ばれた小規模店舗だった。その小さな店舗たちは、定義に規定する「統一的運営」によってパワーを発揮することをめざした。
しかし、時代が進み、テナントの多くがナショナルチェーンとなって各社独自の営業方針を持つようになった。また、顧客の高齢化により、物販店より飲食店やサービス店に期待の軸足も移る。それら店舗はそれぞれに適した営業時間があるため、統一的運営に徐々に変化をもたらした。最近では、人出不足、働き方改革、ワークライフバランスなどの社会的要求、さらにはコロナ禍によりその変化は加速している。
これまで統一運営を標ぼうし、休業日や営業時間を統一することを前提に設計されたSCでは、個別に営業時間を設けることは諸々支障を来たした。
休業店舗のファサード(正面)がシャッターなどで閉鎖できなければ、休業中の店内が露出し、セキュリティ上好ましくない。しかし、シャッターで閉めると今度は館内が閉鎖的となり美観上好ましくない。また、館内の空調は共用部を前提に設計されているため、休業店舗のエアコンが稼働しなければ、その分を館内空調でカバーすることになる。

そして何より、期待して来店したお客が休業を知ったときの落胆も大きい。SCの運営管理上も店員の出退勤、HPなどへの営業時間の表記、問い合わせに対する対応などが日々変わり、かなりのストレスになる。このように、個別に営業時間や休業日を設けるには相応の負担を覚悟する必要がある。
商業施設の価値を再定義する「西山貴仁のショッピングセンター経営」 の新着記事
-
2025/12/01
第128回 少子高齢化時代におけるショッピングセンターのターゲット設定 -
2025/11/18
第127回 ショッピングセンターが「フロア収支」を採用しない理由 -
2025/10/31
第126回 SC運営の成否を決める顧客の滞在時間 “装置産業”としての役割とは何か -
2025/10/17
第125回 「駅ビル」が抱えるリスクを百貨店の歴史から考える -
2025/10/03
第124回 相次ぐフードホールの開業 日本で成功するためのカギとは -
2025/09/19
第123回 「営業時間統一」という常識打破に向け、SCに求められる対応とは
この連載の一覧はこちら [128記事]
関連記事ランキング
- 2025-11-07長野県内最大「イオンモール須坂」が開業! イオンスタイルでは非食品の“専門店化”に注力
- 2025-11-18第127回 ショッピングセンターが「フロア収支」を採用しない理由
- 2025-11-06「街ナカぐらし」に寄り添う!「イオンモール仙台上杉」の館づくりを解剖
- 2025-10-21実例に見る「危ない商業施設」の見分け方
- 2025-11-13知られざる四国の激戦地・愛媛県西条市 トライアル進出で環境急変か
- 2025-11-13イズミ、ハローズ、ダイレックス……中四国最大都市・広島市の視察の仕方
- 2025-11-09新潟県初の「そよら」がオープン イオンリテールの県下での存在感さらに大きく
- 2025-12-01第128回 少子高齢化時代におけるショッピングセンターのターゲット設定
- 2025-10-03「ニュウマン高輪」がデザインする100年先の生活価値とは
- 2013-12-02年間2ケタ以上のNSCを開業!地域密着の商業集積めざす=イオンタウン 大門 淳 社長





前の記事





第108回 ショッピングセンターのテナントが知っておくべき重要なこと