大パラダイム変化のアパレル 変化する「直貿」の意味と戦略
変わる「直貿」の意味
ここで、本日のテーマである「直貿」について語れば、もはや原価を絞っても、消費者に対して多すぎるアパレル製品投入量を改善することで、原価以上に自社の販管費に目をつける、目的のあいまいなデジタル化、赤字店舗の閉鎖とECの拡大に加え、追加生産を素材集めからはじめるやり方を改め、
きちんとABC 分析を行えば、売れ筋商品は、ほとんどが定番素材であることがわかるはずだ。だから、デザイナーのワガママを鵜呑みにせず、「先入れ、先出し」のルールを徹底し、残った素材から新しい素材を仕入れるというオペレーションに変える必要がある。
さらに、デザイナーに言われるがままに、仕入先を恐ろしいほど増やすといった悪癖(いままで見たもっとも酷いケースでは、売上高100億円程度の企業が500社も使って調達していた)は辞め、2年前、3年前の素材であっても、たとえば黒、ネイビーなどのスーツ生地であれば数年掛けて使うというFIRST IN FIRST OUTを徹底し、本当にキャッシュになる製品を中心に工場を絞り込み、工場ごとに特色をつけ、製品特性にあわせ、多くても10社程度に減らすことだ。
自社に内在化する「ムリ」「ムダ」「ムチャ」の3Mを、「100-1」 (続けるか辞めるかという極論)の議論をせず、MD戦略目的によってセグメントして統廃合してゆくバランスの問題と考え、1社の工場のシェアをできるだけ高める(理想はシェア80%、まずは50%の製品ラインを埋める)調達戦略をとることだ。
最後に、私の商社マン時代の話をしよう。当時は、アパレルの人を工場に連れて行っても、見向きもされず、工場は完全に商社の言いなりだった。なぜかといえば、実際に工場にお金を払うのは商社だから、工場にとってのお客様は商社だったのだ。私はそんな話を中国人とするたびに、「本当はアパレルさんが買ってくれるのに、なぜ商社マンばかり優遇されるのだろう」と感じていた。
このように、原価低減の限界まできている工場との関係を「われわれこそが、ファイナルバイヤーだ」ということを知らしめ、LTと柔軟性のイニシアティブをこちらが握り、デジタル化ツールと併せて直貿化をしてゆくのが、新しい調達戦略なのである。
幸いに、トランプ関税のため、アジアの工場の稼働率は落ちており、距離の近さからか、日本が注目されている。「一見さんお断り」「つくってもいいけど納期は1年後ね」などと言われ、結局商社との腐れ縁を切れなかったアパレル企業は、マッチに火をともす程度の原価低減に期待するのではなく、このピンチをチャンスに生かし、デジタルツールが威力を発揮できるよう、まずは、「自社こそがものづくりの主役である」という意見をしっかりとアジアの工場に知らしめる必要がある。これが、直貿の戦略的意味合いとなり、工場の柔軟性とデジタル化の原価償却費や在庫ロスをミニマイズ(最小化)させる新戦略だ。
繰り返し言おう、これからのアパレル企業、アパレル小売に必要なアジェンダは、「M&A」「デジタル」「オフショア(東南アジアへの販売)」の3つである
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