大パラダイム変化のアパレル 変化する「直貿」の意味と戦略
欠品と過剰在庫を最小化するというベンダーには要注意
そもそも世界のスタンダードは、追加を追いかける「作り増し型」(主要KPIは欠品率)ではなく、欠品がでれば、新商品でカバーするという客単価を主要KPIにし、欠品率を追いかけていない。私もスクロールという通販企業で実践してみたところ、大成功で過剰在庫が恐ろしく改善した。
アパレル小売は「絶対に在庫を持たない企業」が勝ち組となっている。賢い小売は、自社のセンターストックに納品はさせるも、ベンダーには預託にし、「うちの在庫じゃないから、保管料金を出せ」と、在庫リスクを持たないまま、倉庫在庫の保管料金まで請求しているぐらいだ。従って、キャッシュ・コンバージョンサイクル(仕入れてから店頭に出して換金化されるまでの期間)が、なんとマイナスとなり(当たり前である。売れた瞬間に、倉庫にあるベンダーの在庫の売上と仕入を同時に上げ、現金化期間の差分で超高速回転をしているのだ)、キャッシュがたっぷりと貯まっている。
さらに、これは最初に宣伝していた私の責任もあるのだが、PLM(Product Lifecycle Management:製品の開発・設計・製造といったライフサイクル全体の情報をITで一元管理し、収益を最大化していく手法)というのは、所詮ツールであって、物理的な商品リードタイムがそこで自動化された業務を達成するためには、物理的なリードタイムが半年とか1年前などという緩さでは管理以外のなんのメリットもない。

悪いことばかりではない円安
実はトランプ関税は悪いことばかりではなく、アジア(とくに中国からの)米国向け輸出が減少する中、工場の稼働率が落ち、頼みのSheinやTemuもさまざまな文句を世界から浴びており、上場も見えなくなってきた。また、円の信用が下がる中、現在起きている円安は日本からの輸出にかけられた15%を相殺してあまるもので、実際、輸出企業の自動車のマツダは発表後の株価がストップ高になるまで上昇した。
本来、円安というのは日本にとって悪いことばかりではない。もともと日本が「Japan as No.1」と言われてきたのは、朝鮮戦争でひき上がった軍需景気に加え、さまざまなものを世界中に売りまくり、GDPを押し上げてきたからだ。たとえば、ユニクロは株価が一時的に下がったものの、同社は海外事業が日本事業を抜かし、また、世界中にアセット(資産)を持っている。よく考えれば、これらの資産が円安によって高値に評価され、大きな利益計上となっている。日本市場に絞って値引きの消耗戦に陥っている「ドメスティック企業」は、調達価格が円安で高くなり、キャッシュショートに陥っている企業も多い。従って、ファーストリテイリングは最高益を更新し、ZARA、H&Mなどは苦戦しているわけだ。
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