トライアルが西友の買収を完了 徹底解説!結局、何がどう変わるのか?

取材・文:植芝 千景 (ダイヤモンド・チェーンストア 編集記者)

※この記事は、約3か月前にDCSオンライン+会員向けに公開した記事を、フリー記事として再公開しています。

買収発表から4カ月。トライアルホールディングス(福岡県/永田洋幸社長:以下、トライアル)は7月1日、西友(東京都/楢木野仁司社長)の全株式を取得した。両社の売上高は合計1兆2000億円を超え、国内小売業界の勢力図に新たな「第三極」が誕生することになる。

7月2日に開かれた会見では、商品・物流・販促に至る幅広い領域で具体的な統合戦略が示され、単なる規模拡大にとどまらず、流通業界全体の構造的課題の解消に取り組む姿勢を見せた。両社が描く統合後の戦略の全貌とは。

キーポイント

  • 流通業界に新たな「第三極」誕生: トライアルによる西友買収で、売上高1兆2000億円超の巨大流通グループが生まれ、業界勢力図を塗り替える存在である。

  • 「40兆円のムダ」解消を志向: 統合の最大の目的は、流通業界に存在する非効率をテクノロジーと規模の補完性で解消し、生産性を引き上げることである。

  • 四つの具体的な統合戦略: 商品の相互展開、TRIAL GOの関東立ち上げ、物流統合による生産性向上、リテールメディアの本格展開を推進し、シナジーを最大化するものである。

楢木野仁司氏が西友新社長に就任

 スーパーセンター(SuC)を主力に全国展開を進めるトライアルが西友の買収を発表したのが3月5日のこと。両社の売上規模を単純合算すると1兆2000億円を超え、小売業界の勢力図を塗り替える大型M&A(合併・買収)として注目された。

 イオン(千葉県/吉田昭夫社長)やパン・パシフィック・インターナショナルホールディングス(東京都/吉田直樹社長)も西友買収に関心を示していたとされ、有力候補と目された企業を退けてのトライアルによる買収決定は、市場関係者に大きなサプライズをもたらした。

左から西友の大久保恒夫前社長、トライアルの永田洋幸社長、トライアルカンパニー会長の楢木野仁司氏、西友執行役員経営企画本部長武田正樹氏
左から西友の取締役副会長に就任した西友の大久保恒夫前社長、西友取締役会長に就任したトライアルの永田洋幸社長、西友新社長に就任したトライアルカンパニー会長の楢木野仁司氏、西友執行役員経営企画本部長武田正樹氏

 西友は25年6月26日時点で首都圏を中心に245店舗を展開する。21年に筆頭株主がウォルマート(Walmart)から米投資ファンドのKKRに移行した後、大久保恒夫社長の主導のもと経営改革を推進。北海道や九州の店舗網を他社に売却し、本州エリアに経営資源を集中して収益性の改善を図ってきた。

 一方のトライアルは、近年、生鮮食品強化の取り組みが成果を上げており、各地で存在感を急速に高めている。24年には北陸や四国に進出するなど新規エリアへの出店も加速中だ。

 こうした背景のもと、トライアルは7月1日、西友の全株式を取得した。買収総額は約3800億円。直近の売上高はトライアルが7179億円(24年6月期)、西友は4835億円(24年12月期/本州事業速報値)であり、両社を単純合算すると1兆2014億円となる。

 EBITDA(利払い前・税引き前・減価償却前利益)は658億円、売上高EBITDA率は5.5%程度と見込まれ、国内小売市場に新たな巨大流通グループが誕生することになる。

 新体制では、トライアルカンパニー会長を務める楢木野仁司氏が西友の新社長に就任。西友の取締役会長にはトライアルの永田洋幸社長が、取締役副会長には西友前社長の大久保恒夫氏がそれぞれ就任した。

楢木野仁司氏
西友の新社長に就任したトライアルカンパニー会長の楢木野仁司氏

 西友の新社長を担う楢木野氏は、学生時代にトライアルでプログラマーのアルバイトを経験したのち、1987年にトライアルカンパニー(福岡県/石橋亮太社長)の電算部に正式入社。2006年に東日本ブロック長および関東・東北支店長に就任した。09年からは取締役販売本部長兼商品本部長として営業および商品開発の中心的役割を担い、12年から代表取締役社長としてグループの成長を牽引してきた。

 18年に代表取締役会長に就任後は、無人・省人化の実証モデルとして知られる「スマートストア」の開発を主導。23年からは小型店舗事業を担うトライアルストアーズ(福岡県)の社長も兼任し、現場運営とデジタルを融合させた小売改革に積極的に取り組んできた。

 会見の場で楢木野氏は、「最大限のシナジー効果を引き出せるよう邁進したい」と述べ、商品開発や物流、店舗運営の各領域で迅速に改革を実行する考えを示した。現場経験とITへの深い理解を併せ持つ同氏のリーダーシップのもとで、西友が新たな進化を遂げることが期待されている。

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取材・文

植芝 千景 / ダイヤモンド・チェーンストア 編集記者

同志社大学大学院文学研究科(国文学専攻)修士課程修了後、関西のグルメ雑誌編集部を経て、ダイヤモンド・リテイルメディアに入社。関西小売市場やDX領域を中心に取材・執筆を担当している。現在は大阪府在住。

まとまった休日には舞台・映画鑑賞を楽しむほか、那智勝浦へ弾丸旅行に出かけることも。世界各国の家庭料理を再現するのも趣味のひとつだが、料理に入れたスパイスで歯が欠けたので今は控えめに取り組んでいる。

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