トライアルが西友の買収を完了　徹底解説！結局、何がどう変わるのか？

2025/11/06 13:26

ディスカウントストア DCS report 西友トライアル 25年8月1・15日合併号　独創する！ローカルスーパー

取材・文：植芝千景（ダイヤモンド・チェーンストア編集記者）

統合後は4つの戦略を推進

　トライアルによる今回の経営統合のねらいは、単なる事業拡大ではない。会見でトライアルの永田社長は、流通業界に存在する「40兆円規模の“ムダ・ムラ・ムリ”」を指摘したうえで、「これらを最適化し、業界全体の生産性を引き上げるべき段階に来ている」と語った。西友との統合は、こうした業界課題を「規模の補完性」と「テクノロジー」の両面から解消し、商品調達や物流、生産、販促のすべてにわたって再設計を図るものと位置づけている。

　一方、西友の大久保前社長（現・取締役副会長）は、自らが主導してきた改革の成果について振り返り、「この3年間で営業利益を高め、その利益を再投資するという成長サイクルが整った」と述べた。その改革の柱として「商品力と販売力の強化」を挙げ、とくにそれを下支えした「情報システム」および「人材」への投資の重要性を強調した。

　今回の統合に関しても、「ITやデータ活用、流通改革に先進的なトライアルとの組み合わせは、西友にとって最適な選択」と評価。統合によって、西友がこれまで積み上げてきた価値創造への取り組みがさらに加速すると期待を寄せた。

　両社は統合後の具体的な戦略として、「❶商品の相互展開」「❷関東でのTRIAL GOの垂直立ち上げ」「❸生産性向上」「❹リテールメディアの本格展開」の4つを掲げている。

　「❶商品の相互展開」については、西友のプライベートブランド（PB）である「みなさまのお墨付き」シリーズを、今秋より順次トライアルの店舗でも取り扱うことを明らかにした。同シリーズは首都圏を中心に高い認知度を誇っており、全国展開に向けて供給体制の整備を進めている。

　また、総菜分野においても連携を強化する。トライアル傘下の明治屋（福岡県／大塚長務会長）が製造・開発する商品を、西友の店舗でも展開する計画が進行中だ。両社は現在、双方の総菜カテゴリーの強みを生かし、明治屋を中核として新たに商品開発を進めていく方針を示している。

　あわせて、西友が保有するセントラルキッチン機能も活用し、都心型の小型店舗においても「出来たてかつ高品質」な商品を安定供給できる体制を整えていく。

リテールメディアを西友でも展開

　「❷関東でのTRIAL GOの垂直立ち上げ」は、九州で実績を重ねてきた1000㎡以下の小型フォーマット「TRIAL GO」を関東圏でも本格的に展開するものだ。西友の既存店舗を商品供給のハブとし、都心型フォーマットとして複数店舗を年内にも出店する。まずは数店舗で試行・改善を重ね、完成度を高めながら店舗網を広げていく方針だ。

TRIAL GO 今泉2丁目店外観 — トライアルは関東でのTRIAL GOの垂直立ち上げを発表。写真は「TRIAL GO 今泉2丁目店」（福岡県福岡市）

　「❸生産性向上」については、全国に71拠点ある両社の物流・製造拠点を統合・整理する。具体的には、トライアルの関西エリアにおける製造拠点がすでにフル稼働状態である一方、西友には中部や関西エリアに稼働余力がある拠点が複数存在する。こうした施設を有効活用して生産性を向上させ、商品供給の精度とスピードを同時に改善することをめざす。

　「❹リテールメディアの本格展開」においては、トライアルが開発したサイネージ端末やID-POSデータを活用した「One to One型」の販促手法を、西友店舗に広げていくことを計画する。トライアルの永田社長は「メーカー、小売、顧客をつなぐ新しい販促プラットフォームとして機能させたい」と話し、従来型の広告モデルに依存しない販促のあり方を模索。両社共同で消費者接点のデジタル化を進めることで、販促効果と広告収益の両立を図る考えだ。

　九州を地盤に全国展開を進めるトライアルと、首都圏を中心に確固たる顧客基盤を持つ西友の統合によって、流通業界の新たな「第三極」となり得る巨大グループが誕生した。小売市場における勢力図を変える可能性を秘めた新生トライアルの動向に、業界内外から大きな注目が集まっている。