テナント賃料は高いのか安いのか、不動産から考えるアパレルチェーンの出店戦略

小島健輔 (小島ファッションマーケッティング代表)

「面」「線」「円弧」のドミナント出店戦略

 出店は個別物件ごとに対応するのではなく、最初に各リージョナルを押さえる店舗布陣の青写真を描き、優先するリージョナルから物件を確保していくべきで、個別案件に点で対応してはマネジメントもロジスティクスもコストを逸脱してしまう。どうしても押さえておきたい物件が点で発生する場合は、自社で契約して店舗を開設し、ドミナント布陣する段階まで現地の販売代行業者に運営を委託するという選択もあるだろう。

 ドミナント出店布陣の定石は、①マーケティング、②マネジメント、③ロジスティクスの3点から「面」で布陣するか、「線」で布陣するかの選択になる。ローカルTV広告や店舗軸SNSなどのマーケティング、店舗要員の採用やシフト運用、デベ対応などのマネジメント、ローカルテザリング※1やシーズン末の集約売り切り、店舗軸OMO※2などのロジスティクスを計画すれば、ローカルでは「面」布陣になることが多い。だが、鉄道網が発達したメトロエリアでは、沿線別に「線」布陣したほうが合理的だし、同質の郊外マーケットをカバーするには16号線圏や武蔵野線圏など「円弧」布陣が適切な場合もある。

※1 テザリング⋯⋯店舗間で在庫を融通して在庫効率を高めるローカル・ディストリビューション手法で、サイズ在庫負担の大きいABCマートや紳士服チェーンでも活用されており、近年では修理加工の集約やOMOの店出荷・店受け取りと連携されるケースも見られる。
※2 OMO(Online Merges with Offline)⋯⋯ネットと店舗の垣根を超えた連携を意味し、ショールーミング(店舗からネット)による情報取得で店舗やネットの購入を促進したり、ウェブルーミング(ネットから店舗)による店取り置きや店渡し(BOPIS)、店出荷で顧客利便と在庫効率を高め物流コストを抑制するリテール戦略。

小島健輔(小島ファッションマーケッティング代表)
小島健輔(小島ファッションマーケッティング代表)

 そんな布陣方式が定まったとして、各リージョナル/エリアの中にどのような性格の店舗を配していくのかが問われる。通常は、最初に中核となる都市の一等地に地域顧客に浸透するためのブランディング店舗(いわゆる旗艦店)を布石し、次に地域内の性格が異なる各商圏に標準店や量販店舗(集約売り切りを担う)を配してドミナントを形成していく。リージョナルロジスティクスでローカルテザリングやローカルOMOを仕組むなら、在庫を抱えて近隣店舗に補給したり、ローカル顧客のEC注文品を店出荷する家賃の安い大型の路面店が不可欠になる。

 アパレルチェーンの出店というと、テナント出店がデフォルトのように思われているが、店舗費(賃料と減価償却費)負担を軽減するうえでも、ローカルテザリングやローカルOMOを仕組むうえでも、一定数の路面店舗は必要で、各地域に店舗布陣する時に配慮するべきだ。フリースタンディング店舗とは限らず、ダイレクトパーキング可能なパワーセンターやストリップセンターも選択の対象になるのではないか。

 

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記事執筆者

小島健輔 / 小島ファッションマーケッティング 代表

小島ファッションマーケティング代表取締役。洋装店やブティック、衣料スーパーを経営する父母の下で幼少期からアパレルとチェーンストアの世界に馴染み、日米業界の栄枯盛衰を見てきた流通ストラテジスト。マーケティングとマーチャンダイジング、VMDと店舗運営からロジスティクスとOMOまでアパレル流通に精通したアーキテクトである一方、これまで数百の商業施設を検証し、駅ビルやSCの開発やリニューアルにも深く関わってきた。

2019年までアパレルチェーンの経営研究会SPACを主宰して百余社のアパレル企業に関与し、現在も各社の店舗と本部を行き来してコンサルティングに注力している。

著書は『見えるマーチャンダイジング』や『ユニクロ症候群』から近著の『アパレルの終焉と再生』まで十余冊。

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