テナント賃料は高いのか安いのか、不動産から考えるアパレルチェーンの出店戦略

小島健輔 (小島ファッションマーケッティング代表)

同じ商業施設内の賃料格差と区画選択

 自店の賃料が高いのか安いのかという比較は、同じ商業施設の中でも当然にある。商業施設を再活性化するには、館全区画の売上と賃料収入を検証して課題を洗い出し、売上と賃料収入を最大化するゾーニングとテナント配置を設計するのが起点となるが、物販店の月坪当たり賃料は位置と区画形状で上下10倍近い開きがある。立地にもよるが、郊外大型モールの場合、5000〜6000円をボトムに5万〜6万円がトップになる。

 なぜそんなに開きがあるかと言うと、①基準階(多くは1階だが駅とデッキで繋がる場合などは2階か3階)メインモールの一等地と上層階の昇降動線から離れた区画やサブモール面といった区画位置②メインモール内の島区画や奥行きの浅い区画と間口に対して奥行きの深い区画、とでは当然に販売効率も賃料も異なるからだ。

 入店客数は区画前を通行する人数と接道面長にスライドするから通行客が多く接道面が長いほど有利で、標準的な間口1スパン×奥行き1スパンの区画の単位賃料を1とすれば、メインモール内の島区画はπ(3.14)倍、メインモール面の2スパン目は0.8、3スパン目は0.6、4スパン目は0.4という計算になる。間口も奥行きも4スパン使ってくれるユニクロのような大型店は奥行き割引だけで単位賃料が7掛けに下がるし(区画形状によってはそれ以上に下がる)、準核店舗扱いになると売上対比の基準賃料率も8掛け、6掛けに優遇され(食品スーパーはさらに低い)、売上金の直接収納も可能になる。
 
 ダウンタウンのビル型商業施設ではフロアの広さや昇降動線にもよるが、基準階から1階上がるごとに6掛け、6掛け、あるいはそれ以上に落ちていくケースも見られるから(4、5階当たりでオフイス賃料と逆転する)、郊外の計画的な大型モールのレイアウトとゾーニングは立体駐車場棟との接続も含めてよく出来ていると思う。

同じ商業施設内でも物販店の月坪当たり賃料は位置と区画形状で上下10倍近い開きがあるとされる(写真はイメージ)

 売上対比の基本賃料率は、個別徴収(賃料と共益費を分けて徴収)ならどの商業施設も一般の物販テナントはおおむね10%だが、位置と区画形状、業種の販売効率と粗利益率によって最低保証売上が大きく異なり、それによって販売効率の格差が賃料率の格差に増幅されてしまう。最低保証水準の高い都心の駅ビルなどでは、好調テナントと不調テナントで結果的な売上対比賃料率は倍以上も開く。

 月坪当たり賃料水準も売上対比賃料率も格差が大きいが、商業施設内の位置や区画形状による合理的な格差、テナントそれぞれの販売力と出店政策(区画選択)によるものであり、恣意的な差別とは言えない。勢いに乗って有利な区画や賃料条件を勝ち取るチェーンもあるが、好区画獲得は高めの最低保証を伴い、一度人気が離散して販売効率が落ちれば賃料負担率が跳ね上がり、店舗を維持できなくなるリスクがある。

 安めの賃料がよいとも限らず、最低保証が高くてもモールの一等地を選択するチェーンもある。結果として高い販売効率を維持して最低保証に抵触する月が無ければ、売上対比の賃料率は基準に収まり、売上が固定費用を大きく上回って高収益が得られる。逆に、最低保証の低い上層階の2等区画を選択するチェーンもあるが、客数が少なく販売効率も低位にとどまり、端境月では低い最低保証でも抵触して賃料負担が嵩み、低収益に甘んじるケースが見られる。区画の選択もテナントチェーンの出店政策であり、個別の状況に流されず一貫することが大切だ。

1 2 3

記事執筆者

小島健輔 / 小島ファッションマーケッティング 代表

小島ファッションマーケティング代表取締役。洋装店やブティック、衣料スーパーを経営する父母の下で幼少期からアパレルとチェーンストアの世界に馴染み、日米業界の栄枯盛衰を見てきた流通ストラテジスト。マーケティングとマーチャンダイジング、VMDと店舗運営からロジスティクスとOMOまでアパレル流通に精通したアーキテクトである一方、これまで数百の商業施設を検証し、駅ビルやSCの開発やリニューアルにも深く関わってきた。

2019年までアパレルチェーンの経営研究会SPACを主宰して百余社のアパレル企業に関与し、現在も各社の店舗と本部を行き来してコンサルティングに注力している。

著書は『見えるマーチャンダイジング』や『ユニクロ症候群』から近著の『アパレルの終焉と再生』まで十余冊。

関連記事ランキング

関連キーワードの記事を探す

© 2025 by Diamond Retail Media

興味のあるジャンルや業態を選択いただければ
DCSオンライントップページにおすすめの記事が表示されます。

ジャンル
業態