従来型のカイゼンは限界に……賃上げをめざすアパレルチェーンが急ぐべき構造改革の要諦

2025/04/21 05:35
小島健輔 (小島ファッションマーケッティング代表)

店舗運営を効率化する4つのポイント

 ではどうすれば店舗運営を効率化し、1人当たり売上高/粗利益高を年々伸ばしていけるのだろうか。内外の有力アパレルチェーンの成功事例から見て大きく4つの施策があると思う。

1)店舗規模の拡大と標準化

2)店舗DXとマテハンのプレハブ化

3)ECの拡大と店在庫引き当てシフト 

4)ローカルOMOマーケティングで店舗網を再配置

 「店舗規模の拡大と標準化」は最も基本的な施策だが、店舗面積の拡大にはラインロビングやMDの「縦売り」化、ライフスタイル業態化が必要で、売上が付いてこないと販売効率も人時効率も却って低下してしまう。「縦売り」「横売り」バランスなどのMD政策とVMD手法、物流が一致してマテハンが定型化されないと運営人時量が嵩み標準化から遠のくから、日間・週間の店舗作業工程をロジスティクスから精緻にシミュレーションする必要がある。

 「店舗DXとマテハンのプレハブ化」は店舗運営効率化の要で、RFIDとAIカメラで在庫管理やフェイシング管理を効率化したり一括読み取りセルフレジで精算人時量を圧縮する一方、生産仕上げ段階や出荷段階で店舗タイプ別にSKUフェーシング量をバンドル化して陳列番地表記するなど、プレハブ化すれば店舗のマテハン人時量を圧縮できる。マテハンについてはプレハブ化に加え、ギャップやユニクロで見られるような専門スタッフや派遣スタッフの活用という選択もある。

 「ECの拡大と店在庫引き当てシフト」は店舗ではなく事業全体の運営効率と人時効率を画期的に高めるものだ。店舗販売の人時効率はどう効率化しても限界があるが、販売に人手を要さないシステム販売のECは、出荷倉庫運営をのぞけば店舗販売の10倍以上の人時効率が可能だから、EC販売比率が高まるほど人時効率は加速度的に高まっていく。手数料率の高い外部モールサイトに依存する場合はともかく、自社サイト中心に運営するEC部門のセグメント営業利益率は店舗部門を15ポイント以上上回る。

 ECの収益力の足を引っ張るのは外部モールサイトの手数料とFC(出荷倉庫)運営費、宅配外注費で、出荷単価が低いとわずかな利益しか残らない。全国区展開のナショナルチェーンならFCを廃して店在庫引き当てのローカル店出荷/店渡しにシフトすれば、FC運営費が不要になり宅配外注費も半減するから、店出荷のマテハン人時量が多少増えても収益力は格段に高まる。ローカルな店出荷はセントラルなFC出荷より1日ほど着荷が早くなり、店渡しなら最短で注文から30分後には受け取れるから顧客利便が高まるのはもちろん、店受け取り来店客による追加購入も期待できる。

 ECをオープン・プラットフォーム化して外部商品の受け取りが広がれば、来店客数が増えて新規顧客獲得にもつながる。店舗販売とECの顧客別売上履歴を統合してローカル管理すれば在庫の配分精度も高まり、全体の在庫効率も高まる。

小島健輔(小島ファッションマーケッティング代表)
小島健輔(小島ファッションマーケッティング代表)

 それを店舗網の再配置に繋げるのが「ローカルOMOマーケティング」で、顧客別売上履歴を統合してローカル管理し、店在庫引き当てのEC出荷/店渡しにシフトすれば、店舗網の理想的な再配置が可能になる。おそらく世界で最初にそれを実行したのが「ZARA」のインディテックス社で、コロナ前20年1月期から直近25年1月期までの5期間で1㎡当たり売上高は49.4%、1店平均売上高は81.2%も跳ね上がり、EC販売比率も13.9%から26.4%に上昇している。米アバクロ社の急激な業績復活もインクルーシブ・マーケティングに加え、ローカルOMOマーケティングによる店舗網の再配置が押し上げた。

 この4つの施策は「店舗規模の拡大と標準化」が実は最も難易度が高く、「店舗DXとマテハンのプレハブ化」はDXの設備投資も嵩む。「ECの拡大と店在庫引き当てシフト」はOMS(受注引き当てシステム)などシステム変更さえクリアすれば、投資も軽く効果が大きい。それを果たせば「ローカルOMOマーケティング」も容易になるから、時間をかけて店舗網を再配置していけば年々、人時効率が上昇して他社を凌駕する賃上げを継続できる。真摯に検討してはどうだろうか。

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記事執筆者

小島健輔 / 小島ファッションマーケッティング 代表

小島ファッションマーケティング代表取締役。洋装店やブティック、衣料スーパーを経営する父母の下で幼少期からアパレルとチェーンストアの世界に馴染み、日米業界の栄枯盛衰を見てきた流通ストラテジスト。マーケティングとマーチャンダイジング、VMDと店舗運営からロジスティクスとOMOまでアパレル流通に精通したアーキテクトである一方、これまで数百の商業施設を検証し、駅ビルやSCの開発やリニューアルにも深く関わってきた。

2019年までアパレルチェーンの経営研究会SPACを主宰して百余社のアパレル企業に関与し、現在も各社の店舗と本部を行き来してコンサルティングに注力している。

著書は『見えるマーチャンダイジング』や『ユニクロ症候群』から近著の『アパレルの終焉と再生』まで十余冊。

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