従来型のカイゼンは限界に……賃上げをめざすアパレルチェーンが急ぐべき構造改革の要諦

2025/04/21 05:35
小島健輔 (小島ファッションマーケッティング代表)

アパレルチェーンに見る効率と人件費の格差

 矢継ぎ早の大幅賃上げでも給与の絶対水準でも突出しているのが国内ユニクロ事業としまむらだが、それを可能にしている労働生産性の秘訣はどこにあるのだろうか。

 1人当たりの平均人件費(会社負担社会保険料など福利厚生費も含む)はしまむらで572.5万円(25年2月期)、国内ユニクロで推計542.0万円(24年8月期)で、アダストリアの396.8万円(25年2月期)やハニーズホールディングス(以下、ハニーズ)の339.1万円(24年5月期の国内従業員)を大きく引き離している。

 それだけの報酬を払える原資は「1人当たり売上高」であり、国内ユニクロは3844.0万円、しまむらは4263.9万円とさらに高い。国内ユニクロはアダストリアの2194.5万円を75.2%も上回り、ハニーズの1671.0万円の2.3倍に達する。しまむらはアダストリアを94.3%も上回り、ハニーズの2.55倍に達する。

 それを可能としているのが店舗規模の大きさで、国内ユニクロは平均1048㎡/9億9254万円、しまむらは1010㎡/2億9717万円に達するのに対し、アダストリアは226.3㎡/1億8360万円、ハニーズは227.4㎡/6476万円にとどまる。1㎡あたりの販売効率は国内ユニクロが最も高く95.2万円、次いでアダストリアが80.5万円、しまむらが29.4万円、ハニーズが28.5万円と格差が大きいが、店舗規模と運営システムの違いで1人当たり保守面積がしまむらの145.0㎡、ハニーズの58.7㎡、国内ユニクロの40.4㎡、アダストリアの27.0㎡と大きく異なり、前述した1人当たり売上高の格差につながる。

 着目すべきは、1人当たり売上高につながる店舗規模と1人当たり保守面積の拡大だ。国内ユニクロが19年8月期からの5期間で店舗規模を93㎡(9.74%)/2627万円(2.72%)拡大し、しまむらは20年2月期からの5期間で店舗面積こそ3㎡しか拡大していないが売上は6093万円(25.8%)も積み上げている。

 この間に国内ユニクロの1㎡あたり売上高は6.8%減少したが、1人当たり保守面積が30.6㎡から40.4㎡に32.2%も拡大し、1人当たり売上高は23.2%も増加している。RFIDタグ一括読み取りのセルフレジなど店舗DXが貢献したことは間違いない。しまむらの1人当たり保守面積は国内ユニクロのような店舗DXが進まず5期間に3.4㎡(2.4%)しか拡大しなかったが、1㎡あたり売上高は商品政策の原点回帰で5期間に25.5%も上昇し、1人当たり売上高は28.4%も増加している。

 国内ユニクロの1人当たり粗利益額はこの間に34.1%増加し、1人当たり人件費は推計36.0%も上昇している。しまむらの1人当たり粗利益額もこの間に37.1%増加し、1人当たり人件費は28.7%上昇している。

 一方、アダストリアの店舗規模も5期間で20.2㎡(9.8%)/2583万円(16.4%)拡大し、㎡あたり売上が5.1%、1人当たり保守面積も2.7㎡(11.1%)拡大して、1人当たり売上高は18.0%増加した。1人当たり粗利益額も16.2%増加し、1人当たり人件費も21.2%増加しているが、伸び率も絶対水準も国内ユニクロやしまむらとは格差がある。

 ハニーズも5期間に店舗規模を9.2㎡(4.2%)/871万円(15.5%)拡大し、1人当たり保守面積は1.8㎡(3.1%)しか増えなくても1㎡あたり売上高が10.9%上昇し、1人当たり売上高は13.5%増加した。粗利益率の上昇(+2.6P)もあって1人当たり粗利益額は18.7%増加し、1人当たり人件費も17.0%増加しているが、伸び率も絶対水準も国内ユニクロやしまむらとは格差が大きい。

 国内ユニクロやしまむらとアダストリア、ハニーズの効率格差は1人当たり人件費の水準に直結しており、コロナを挟んだ5期間の伸び率にも差があって格差が広がった。結局のところ、『給与の支払い能力を高めるには1人当たり売上高/粗利益を年々伸ばしていくしかなく、それには1人当たり保守面積=店舗規模の拡大と店舗運営の効率化が必定』という経営理念が通底しているかどうかだ。

 当たり前に思うかもしれないが、給与水準は業績に左右されるものと錯覚している経営者が未だ少なくない。経営者たるもの給与水準の向上を第一義として経営戦略を組み立てるべきであり、それ無くしては少子高齢化とインフレが進む今日の我が国ではガバナンスが成り立たず、業績も上向かない。

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記事執筆者

小島健輔 / 小島ファッションマーケッティング 代表

小島ファッションマーケティング代表取締役。洋装店やブティック、衣料スーパーを経営する父母の下で幼少期からアパレルとチェーンストアの世界に馴染み、日米業界の栄枯盛衰を見てきた流通ストラテジスト。マーケティングとマーチャンダイジング、VMDと店舗運営からロジスティクスとOMOまでアパレル流通に精通したアーキテクトである一方、これまで数百の商業施設を検証し、駅ビルやSCの開発やリニューアルにも深く関わってきた。

2019年までアパレルチェーンの経営研究会SPACを主宰して百余社のアパレル企業に関与し、現在も各社の店舗と本部を行き来してコンサルティングに注力している。

著書は『見えるマーチャンダイジング』や『ユニクロ症候群』から近著の『アパレルの終焉と再生』まで十余冊。

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