新型コロナウイルス感染拡大下での内食需要を追い風に、食品小売業のなかで最も成長を遂げた業態と言われる生協。2021年度に入ってからも業績は順調に推移していたが、10月になって様相が変わり、「コロナ特需は終わり」との声も現場から聞こえる。こうしたなか次なる成長施策に掲げる、生協のデジタル・トランスフォーメーション(DX)に注目が集まる。
供給高、経常剰余ともに
上期は予想以上の結果に!
全国の地域生協では21年度の供給高(商品売上高に相当)予想を概ね、20年度比で95%、19年度比で105%程度と見込んでいる。
日本生活協同組合連合会(東京都:以下、日本生協連)の発表では、全国の地域生協の21年度上期業績は、供給高が対20年度比97.7%と計画をクリア。対19年度比では114%と2ケタ伸長を遂げている。コープソリューション新聞社調べでは、経常剰余は対20年度比82.5%で、こちらも年初の予想を超えている。
主力の宅配事業の供給高は、対20年度比99.2%、対19年度比116.9%と全体業績をけん引。21 年9 月度は3 カ月ぶりに前年同月実績を超えた。
今上期は、コロナ第5波による感染者数増や東京五輪のテレビ観戦などを背景に自宅で過ごす人が多かったことを要因に受注増が続き、各生協で予想上回る結果となった。
宅配事業の商品利用動向については、とくに調理冷食(麺や米飯、畜産、総菜などの冷凍食品)が引き続き好調だった。
月平均利用金額は
1万7725円!
さらに、日本生協連が3年ごとに組合員を対象に実施している「全国組合員意識調査」でも、生協の好調ぶりを示す結果が出た。月当たり平均総利用金額は1万7725円(宅配、店舗含む)で、前回調査より1018円増加。一方で無利用層・低利用層(月当たり3000円以下)が減少と、コロナ禍で組合員のロイヤリティが高まっていることが明らかとなった。
潮目が変わった10月
多くの生協が苦戦
21年度上期は引き続き好調だった生協陣営。しかし下期の見通しについて日本生協連の二村睦子常務理事は「コロナ感染の状況次第だが、内食需要も落ち着いてくる。楽観視できない」と話し、厳しい状況に対応していく姿勢を打ち出した。
そして見通しは的中する。下期のスタートとなる10月度の宅配事業供給高は、対前年同期比で増収だった9月度に対し、同98.3%と減収に転じた。いくつかの地域生協からは苦戦が伝えられ、「まもなくコロナ特需は終わるのでは」といった声も上がるなど潮目が変わってきるのだ。
国内では急速にコロナ感染者数が減少し、日常の暮らしに戻りつつある。第6波の懸念や海外でのパンデミックを踏まえ、引き続き予断は許さないものの、「アフターコロナ」へと状況は変化し始めている。
「外出自粛」「内食ニーズの増加」を背景にコロナの恩恵を受けてきた生協にとっては、業績のプラス要因が失われることを意味する。
配達員不足、再び
採用面接ドタキャンも
そしてここに来て生協宅配では、いくつかの課題も浮かび上がっている。
まず、戸別訪問による新規組合員拡大活動が、コロナ禍での非接触ニーズの高まりを経て、これまで以上に難しくなったことだ。宅配事業の成長の推進力となる新規組合員の獲得が縮小すれば、事業成長の鈍化に直結する。
次に、配達担当者の人手不足問題だ。コロナ禍で一時的に改善しつつあったものの、飲食やサービス業界の営業再開によって再び売り手市場に変わりつつある。配達を担う宅配パートナー会社によると、「採用面接に連絡なしに来ない人や退職代行を使って短期間で辞める人が増えている」という。
さらに、日常のくらしに戻りつつあるなか、この年末年始に旅行や帰省する人が増え、苦戦することも予想される。そのほか、外食などのリベンジ消費によって内食支出の減少や、食品宅配市場をめぐる競争の激化など、生協宅配を取り巻く環境はこれから厳しさを増す情勢だ。
デジタル活用の実験が続々
全国展開を開始した成功事例も
こうした宅配事業の将来成長への危機感を背景に20年3月、日本生協連は「DX-CO・OPプロジェクト」をスタートした。
組合員の「あたらしいくらし」の実現と、生協職員の働き方改革をデジタル活用で推進するという主旨のもので、すでに数々の実証実験を実施。その成果が徐々に見え始めている。ここで直近の進捗状況を紹介しよう。
今年8月、コープ東北サンネット事業連合(宮城県)では、コストカットや環境負荷軽減、組合員の利用のしやすさを高める目的で、「宅配カタログ配布効率化」の実験を開始した。これは、AIの活用によって、過去の注文履歴からの個々の利用状況に応じて、複数あるカタログ中から配る構成を変化させるというもの。実験の結果、一部のカタログでは配布部数が実験開始前より50%削減するという効果が出ている。
またコープ東北サンネット事業連合は、レシピを選ぶと必要な食材がまとめて注文できるWebサービス「コープシェフ」も21年5月にリリース。11月初旬からは順次、希望する全国の地域生協でも同Webサービスの展開を開始している。
東海コープ事業連合(愛知県)では、今年6月にコープあいち(愛知県)でAIによる配達コース最適化の実証実験を行った。結果、配送トラックの走行距離を約10%、職員の総配送時間を約15%削減する成果が得られている。これを受けて同事業連合は、配送条件をより現場に即した内容に変えて効果を測定する次の実験のステップに移行している。
生協陣営は「DX-CO・OP」プロジェクトを、宅配事業の今後の可能性を拓く重要施策と位置づけ、今後も成功事例から順次、全国の生協への導入を進めていく。
生協が進めるDXについては、利便性の向上や事業経営の効率に限らず、デジタルの力で生協の事業や活動の価値を高められるかがポイントになる。地域での新たなつながりやデジタル弱者の高齢者への配慮も含めて生協らしいデジタル改革をどう打ち出せるか。アフターコロナに向けてDXがカギを握っている。