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第35回 ウィズコロナ時代、「モノが売れる」3つの理由とは

前号では「モノからコトへ」と言うキャッチコピーに踊らされてモノが売れる本質を見失わない大切さを指摘した。確かに人口減少、少子高齢化、低成長経済の今、過去の高度成長期のようにモノが飛ぶように売れることは無い。しかし、12000万人の人口は消費をしているし、最高益を上げる小売企業も1社や2社では無い。この状況をどう説明するのか。今回では、前回の「“モノからコトへ”を疑え」に続き、モノがなぜ「売れる」のか、その理由を解説したい。

MMPhotography/istock

モノは売れている

商業動態統計(20219月速報)から見れば小売業販売額は増加している(図表1)

図表1小売業の販売額の推移(商業動態統計20219月速報)

コロナ禍にあっても事業者は工夫を凝らし、毅然と対応していると推察する。では、なぜ、「売れない、売れない」と叫ぶのか疑問に思うことだろう。

売上が低下している分野と増えている分野

前回も指摘したが、いま売れないのは、「これまで売れたモノ」「これまで売れていた場所」に他ならない。

図表2売上が減少している分野

車もその一つだろう。私の世代は車を持つことがステイタスであり、免許取得と同時に車を購入したものだが、今の若年層の車の保有意向は低く、加えてサブスクモデルやカーシェアも普及し、販売台数は低下している。いずれガソリン車が無くなり、自動運転が始まれば環境はますます変わっていくと思う。それこそ空飛ぶタクシーも56Gの時代では夢物語では無い。

しかし、売上が変わらない分野、むしろ増えている分野もある。

売上が変わらないものは何か。それが図表3に示す「食料品」「医薬品・化粧品」であり、むしろ「EC」は増加している。コロナ禍になってからこれら分野は変わらないどころか売上を増加させているのである。この環境だからこその創意工夫をしているのだと思う。

図表3売上が変わらない分野

モノが売れる3つの理由

この「モノが売れる3つの理由」は、コロナ禍以前から主張してきたが、今回のコロナ禍でより明確になったと思っている。では、その3つとは何か。

①必要なもの
シャンプー、歯ブラシ、化粧品、洗剤、卵、牛乳、しょうゆなど生きていくために、普段の生活を送るために必要不可欠なものであり、無くなれば補充するものでもある(図表3)。ドラッグストアが成長し続けているのはこの生活に必要なものを常に拡充し、生活者のニーズを取り込み続けているからに他ならない。

②心躍るもの
洋服、アクセサリー、デパ地下のスイーツ、新車など生きていくためにすぐさま必要ではないものの、それを身に着けた時の自分、プレゼントした時の相手の笑顔、新しいライフスタイルこういったイメージが浮かぶことで財布を開く。百貨店やショッピングセンター(SC)は、この分野を主に提案してきたはずだが、いつしか滞り、売上が低迷し顧客からの支持を失ってきている。

③課題を解決するもの
人々が口にすること、例えば、最近、不眠で体調が優れない、加齢で肌にハリが無くなってきた、お腹周りの脂肪が気になる、冬を暖かく過ごしたい、ゴルフで100を切りたいなど理由はどうあれ、皆それぞれ色々な悩みや課題を抱える。この解決のためには人はお金を払う。

たとえば「2ヶ月で筋肉質の体型を手に入れることができる」ならそれなりの金額を払うだろうし、冬を暖かく過ごしたいからヒートテックを買う。決してヒートテックが欲しいのでは無く、「暖かく過ごしたい」という課題を解決することにお金を払っているのである。

この3つが「モノの売れる理由」だが、今、店頭にどれほどこの3つが並んでいるだろうか。

モノを無理矢理売ろうとする行動

ドラッカーは言った、「マーケティングとはセリング(売り込み)を不要にすることだ」と。この3つのテーマを考えれば売れるものは自ずと決まる。しかし、SCや百貨店の店頭では、常に販促や接客などのセリングが行われている。これらの目的は、買う気にさせる、買わせる、売り込む活動に他ならない。ポストコロナ、客足が戻ってきた時、改めてドラッカーの言葉と共に売れる3つの理由を確認して欲しい。

 

西山貴仁
株式会社SC&パートナーズ 代表取締役

東京急行電鉄(株)に入社後、土地区画整理事業や街づくり、商業施設の開発、運営、リニューアルを手掛ける。2012年(株)東急モールズデベロップメント常務執行役員。201511月独立。現在は、SC企業人材研修、企業インナーブランディング、経営計画策定、百貨店SC化プロジェクト、テナントの出店戦略策定など幅広く活動している。岡山理科大学非常勤講師、小田原市商業戦略推進アドバイザー、SC経営士、宅地建物取引士、(一社)日本SC協会会員、青山学院大学経済学部卒