初年度1億円!老舗出版社、文藝春秋の食EC「文春マルシェ」好調の意外な理由
データから見えてきたシニア層の食志向
田中部長によると、このサイトを始めてシニア層の食に関する気づきもあったという。たとえば、総合ランキング8位の「おうちで揚げない海老カツレツ」は60歳以上購入件数第4位、60歳以上女性購入件数2位。「お年寄りはあまり揚げ物をとらない」とのイメージがあったが、ともに注文されている商品は「大きな岩牡蠣のグラタン」「オリジナル海鮮丼」「おぐに牧場のハンバーグ」など食に関して幅広い興味、嗜好があることがわかった。
また、とれたてサバの醤油漬け丼8袋、鳥津さんのじゃこ天2種6袋、笹ちまき4種12個セットなどパックで小分けにされた商品にも需要が多いことがわかった。「好きなものをちょっとずつでも楽しみたいというようなニーズが多い」(田中部長)。
長引くコロナ禍のなかで緊急事態宣言は解除されたが、経営的に大きな打撃をうけた飲食店や食に関する事業者は少なくない。猪口氏は、このコロナ禍での飲食店や生産者の動きについて「ひとくくりにしてコロナで大変というのはちょっと違う」という。コロナ禍初期は売上が厳しかったが、最近では既存商品を新たに作り直した商品で売り上げは少しずつ上向いていたり、その一方で本当に苦しくて大変なので手を貸してほしい、という人がいたりと回復の度合いは異なっている。「文春マルシェではきちんとその一人ひとりの生産者さんを見ながらお話ししお手伝いできることをしたい」と話す。紹介する商品についても「現地に行って確認したものを、見たまま等身大で紹介するのが基本。話しを盛ったり面白くではなくきちんと正確な情報をお伝えする」。
事業を開始して1年。柏原プロデューサーは「なかなか出版というものをだけではない形で出版社は生き残っていかなくてはいけないのは出版業界全体の考え。これをさらに伸ばしていきながら出版とのシナジーも展開できれば」と意欲をみせる。当初の目的であったシニア層への浸透も成果がみえたことで、若い層にむけたリーチも模索していく。
根底にあるのは「信頼を裏切らないものを作り続けていくこと」。出版社が運営している食の通販は先行者も多い。そのなかで文藝春秋が持ち続けているブランドと信頼を新規事業につなげる姿勢は他の事業者にとっても学ぶところが多くありそうだ。