メニュー

倉林武也のインサイト入門③買い物客(ショッパー)の気持ちをとらえるポカリスエットのインサイトとは

スーパーマーケットのドリンク

今回から数回に分けて対象者の「インサイト」を捉えて、実務に活かすためのポイントを〈事例〉と合わせて紹介する。前回掲載したインサイトの活用のためのフロー(展開につなげるための進め方)は、以下の内容で構成されている。

①インサイトを活用した展開により、解決したい課題や目標(ゴール)を設定。②自社の製品、サービスの売場や売られ方の現状について整理。小売業や売場といった環境を理解。③ショッパー(買い物客のこと)のインサイトを捉える場合の対象者を設定。④データの活用や生活、社会環境を把握。 ⑤ショッパーの気持ちのスイッチの入れ方。そして、⑥プロモーションやコミュニケーションとしての展開。
今回はこの①の目標の設定と②の売場や売られ方についての整理について解説したい。

「売上」を他の言葉で説明してください、と尋ねられたら皆さんはどう答えるか?

 マーケティングやプロモーション活動の目標を設定する際に、「売上」と言う言葉が必ず使われる。では、この「売上」を別の言葉で説明して(言い換えて)くださいと尋ねられたら、皆さんはどう反応するか?普段、セミナーなどでこうした質問を参加者にすると「商品の売れた数」や「営業活動における評価や、自身の活動量や努力の対価」など色々な声が挙がる。

 「売上」は小売業で働く人と、メーカー企業の人とでは捉え方がまったく異なる。小売業において「売上」は図の様な「客数」×「客単価」によって構成される。ここに〈ブランド〉と言う単語はなく、売上を構成する商品(メーカー企業にとっては製品)はAやBやCになる。売上や集客が上がったり下がったりした場合、この中のどの部分に問題があるかが追求、検討される。

※クリックして拡大

 一方で、メーカー企業にとって主役は自社の製品(ブランド)であり、その売上は「取り扱い店舗数」や「商圏やカテゴリー内のシェア」と言う考え方になる。この場合、自社の製品を中心とした考え方が常に行われる。つまり、小売業においてもメーカー企業においても「売上」は大事なものだが、それを構成している要素や考え方は全く異なる。両者における商談での考えや想いの不一致は、こうした視点の違いが浮き彫りになるケースといえる。

※クリックして拡大

ショッパーインサイトはこの不一致を同じ方向に向かわせる効果も持つ

 小売業、メーカー企業それぞれの視点が異なるままでは、共に満足の行く展開や目標に掲げたゴールにはつながらない。この時の小売業とメーカー企業の異なる視線を同じ方向に向けることに「ショッパーインサイトの活用」は効果を生む。インサイトを見つけて、それを上手に展開へとつなげることは、相互にとって新しい市場や需要の開拓につながることになり、両者の目標が一致をする。

 そうしたインサイトをとらえるための手がかりとしてショッパー(買い物客)と商品やサービスを展開する「場」に注目をしたい。小売業とメーカー企業がインサイトに取り組み効果を生む時のコツがここにある。買い物の「場」を理解しながら、ショッパーの様子を掘り下げて洞察し、そこにある「願望」や「不満」、「矛盾」を掘り下げていくと、ただ漠然とショッパーのインサイトを掘り下げようとするよりも、遥かに精度の高い展開や結果につながる。

ポカリスエットは若者や夏のイメージを持つ商品。でも量販店における主なショッパーは主婦層

 例えば、多くの人が購入や飲用の経験を持つポカリスエット(大塚製薬)。この商品の持つイメージを挙げてみると、スポーツ中に汗をかくシーンや、夏の暑い日差しや学生や若者の姿を思い浮かべる方が多いだろう。

 ところが、この商品が最も多く購入される食品スーパーなど量販店の客層の中心は、主婦層やシニア層になる。若者のイメージから販売促進のテーマをつくっても、量販店のショッパーの中心層である主婦層には今ひとつピンとこない。この時に、ショッパーである主婦層や女性の気持ち(願望や不満)をとらえると、「夏の水分補給は大切だが、秋から冬にかけては肌の乾燥や子どもが風邪をひいた時の水分補給が気になる」といった気持ちの中の声が見つかる。そうすると、この商品を訴求できる季節も、夏場に限らずに年間を通じた商談が期待できる。

 一方、若者層のインサイトのとらえ方では、ポカリスエットの未来を担う(今後の量販店における購買層の予備軍としての)意味からも重要になり、マスメディアやSNSを使用して、彼らの自撮りやダンス選手権などへの参加・出演を含めた「共感や話題作り」が重要な施策になる。

 この様に「インサイト」の追求は、ショッパーのとらえ方とその商品やサービスが展開される「場」の考察を、話し合いの中で行ったり来たりしながら進めることになる。ポカリスエットは、この画像にある様にすでに5年以上展開されている。「うんうん、それわかる」と頷けるインサイトは、年数を経ても通用する企画や展開を生む。

 次回は、この「場」について量販店やそれ以外のチャネルの捉え方を中心に、その活かし方・注意する点についてを事例を含めながら紹介する。