アパレル大手のワールド(兵庫県/鈴木信輝社長)が5月上旬に発表した2021年3月期(20年4月~21年3月)通期の連結業績は、売上高が1803億円(前期比23.7%減)、営業利益が216億円の赤字(前期は123億円の黒字)と大幅な減収・赤字転落となった。親会社所有に帰属する当期純損失は171億円(同80億円の黒字)で、過去最大の赤字となった。
過去最大の赤字で 追加の構造改革迫られる
圧縮、縮小、後退…。過去最大の赤字を計上したワールド。「COVID-19に振り回された1年」と決算報告で述べたとおり、既存店売上高は通期31.9%減という衝撃的な売上の蒸発を経験した。悔いが残るのは下期。秋冬シーズンでMDを修正できなかったことから下期以降の収益正常化に失敗。追加の構造改革に迫られ、さらに身を斬ることとなった。
2020年8月に公表された1度目の構造改革プランは、通期で459店舗を退店数、5ブランドを終息するというもので、すでに実施済み。21年2月に新たに公表した二度目の構造改革プランを現在進めている最中だ。ここではさらに452店舗を閉鎖、7ブランドを終息させる。
同社は16年3月期にも500店を閉めて453人が希望退職。さらに20年3月期にも294人が希望退職している。それらと合わせれば1181人の社員が去り、1220店が退店している。もちろん、その時はコロナは想定していなかったにせよ、繰り返される「構造改革」はもはやその名にそぐわず、痛々しさしかない。
「背水ローン」で改革資金は確保
それでも、これらで発生する138億円の構造改革費を145億5600万円のIFRS(国際会計基準)対応「永久劣後ローン」という資本性金融商品でカバー。高金利ながらもIFRS会計基準で資本組み入れが可能な同ローンを利用することで財務体質の悪化は食い止め、復活への資金的体制は整備した。
復活へ向け発表された3か年中期ビジョンによると、2022年3月までに新常態での収益構造の確立、2023年3月までに収益構造展開の開始、2024年3月までにサステナブル社会に適合した構造改革完遂となっている。
アパレルで培った「機能」「ノウハウ」の外販で儲ける
具体的には、デジタル化を推進し、戦略商品の出店を加速。売場およびブランドでEC化を加速させ、新状態に適合した販売体制を確立することが軸となる。加えて、堅調に推移するライフスタイル事業のさらなる収益の拡大を図り、変化に強い企業体への進化を図る。
そうした中でデジタル事業の取り組みは特徴的だ。事業はまだ赤字だが、大手通販や大手アパレル、大手セレクトショップからリアル店舗との連動を前提とするEC業務を受託しているほか、ダイワハウス工業と協業して、大手アパレルなどに物流コンサル業務も行うなどBtoB領域での業容を拡大している。
このほか、他社との協業によるオンデマンドプリントをフル活用した独自の生産モデルで、デジタルマーケティング部門と密に連携することで、次世代型の服作りを実現する。横展開も視野に入れており、新常態も見据え、面白い存在に成長する可能性を秘める。
また、個人クリエイターをファンをつなぎ、製造から販売、PRまでを包括するプラットフォームとしての「ワールドファッションクラウド」(仮称)のベータ版もローンチし、次世代をにらんだ新たなアパレルの形も追求する。
さらにリユース、シェアリングサービスも強化し、「つくらない」ビジネスも本格化させる。
こうした、「裏方」業務ですでに大きな利益を上げているのがプラットフォーム事業だ。885億円の事業売上収益のうち、外部から上げた売上収益はすでに127億円、他の事業がいずれも赤字のなか、41億円のセグメント利益を計上している。なお同事業は22年3月期、さらなる外販強化に向けた費用負担と医療用ガウンというコロナ関連特需の反動で、大幅減益となる見通しである。
ユニクロ一強時代、ワールドの“変身”は間に合うか?
決算発表で鈴木信輝社長は、「昨年8月に引き続き、2月に発表した構造改革完遂に向けて、いまなお社員に厳しい施策を展開し続けている状況。1年に2度に渡る構造改革を行わなければならなかったことは、ひとえに社長である私の責任であり、 自らが最前線に立って改革を牽引する他ないと覚悟している」と述べ、その上で「これまで重点的に投資してきたデジタル事業の収益化の目途もつき始めており、今後の成長を牽引しうる新たな事業も芽を吹き始めた。 今期(22年3月期)はアパレルブランドの復活が非常に重要。 社員一丸で『実行度』にこだわって、アパレルブランドの復活を成し遂げていきたい」と決意を語っている。
今期は売上収益で8.9%増の1964億円、営業利益で63億5000万円を計画。売上収益は20年3月期の16.9%減、営業利益は同48.6%減とし、いまだ終息の見通しが立たないコロナの影響を踏まえ、慎重な数字にとどめている。
圧倒的強者のユニクロを筆頭に、コロナ下で明暗が鮮明になっているアパレル業界。そうしたなかでワールドは、主力アパレル事業の収益性を改善させるとともに、BtoBを主軸とするデジタル事業、プラットフォーム事業を飛躍的に成長させて、ビジネスモデルの大改革を急ぐ。洋服に対する価値観が激変したいま、ワールド変身は間に合うのか? そのゆくえに注目が集まっている。