マーケット縮小、競争激化、変化に対応できる企業が生き残る=ヨークベニマル 大髙 善興 社長
広がる業界再編の動き 「質を伴わない“膨張”は危ない」
──小売業各社の再編が進んでいます。ヨークベニマルも過去に2度、M&A(合併・買収)を実施しました。今後、小売業の優勝劣敗が明らかになっていく中で、ローカルチェーンなどを買収する可能性はありますか。
大髙 門戸は開いています。ただし、前提となるのは商売の哲学や思想、志を共有できるかどうかです。
SMの経営で重要なのは、店長を中心に従業員一人ひとりが、会社の哲学と理念とフォーマットを理解して、納得して実践できるようにすることです。店長は自分が店舗を「こんな店にしたい」という志を持ち、その実現に向けて地道に努力する。従業員はデータに基づく単品管理をしながら、毎日小さな改善と挑戦を繰り返し、地域のお客さまに喜んでもらえる方法を考え続けること。その結果として収益が生まれるような組織と風土と仕組みを、経営はつくらなくてはいけません。
企業を買収した場合、自社の経営哲学や思想、マネジメントの手法を浸透させるまでに10年かかります。規模を拡大したいのであれば、自社で土地を押さえて店をつくり、人を採用して教育していくほうがよほど早いのです。
食品には地域性がありますので、SM業態でナショナルチェーンをつくるのは難しい。それよりは地域の特性をよく知っているリージョナルチェーンが集まるほうがよいのではないでしょうか。
M&Aによって、単純合算で企業規模が大きくなれば安泰ということはありません。質を伴わない“膨張”は危ない。当社は4000億円近い規模がありますが、会社が大きくなるというのは、大変なことです。店数と人の成長のバランスが重要だと考えています。
──アークス(北海道/横山清社長)がSMで3兆円規模のグループをつくる方針です。青森県を地場とするユニバース(三浦紘一社長)を中心に、宮城県など東北地方南部に“南下”する計画です。
大髙 今はアメリカのウォルマート(Wal-mart)やコストコ(Costco)が日本に来る時代です。県外から進出してくる競合はアークスだけではありません。
マーケットに目を向ければ、東北地方の人口減少は深刻な状況にあります。宮城県の仙台市内だけは年間の人口減少率が0.5%程度ですが、青森県や秋田県は年間1.2%ずつ人口が減りますから、10年後の人口は1割以上少なくなっている計算です。
当社が地盤とする福島県の人口は現在194万人程度ですが、35年に155万人に減り、50年には122万人まで減少、つまり4割も減ると予想されています。65歳以上の割合を見ると、現在は26%程度、それが35年には37%に増える見通しです。高齢者は1日当たりの摂取カロリーが少なくなることを含めて考えると、50年には食品の市場規模が半分程度になってしまうのです。
ただ、外部環境の厳しさを嘆いたところで、状況は変わりません。難しい状況の中でも基本を徹底すること。つまり、明るい笑顔で接客をし、清潔な売場を保ち、いつ店に行ってもおいしくて鮮度のいいものを品切れすることなく揃える。強固なドミナントを築き、人材を育て、物流センターや総菜など製造工場を整備して、収益を上げるための組織と仕組みを一つひとつつくっていきます。
そして、セブン&アイ・ホールディングス(東京都/村田紀敏社長)の鈴木敏文会長の言う「正しい単品管理」を実践すること。毎日、毎日、データを集めながら、お客さまにとって価値ある商品づくりに挑戦し続ける。そのための組織と仕組みをつくり、マーケティングとイノベーションを続ける。これを地道に続けていけば、生き残れると思います。
試練がある中でも、常に前を向いて、創造と挑戦を続けること。王道を行きつぶれたなら、それでもいいと思っています。